職種別の単価相場を自分で調べる:公開データから自分の位置を確かめる手順
- 結論:単価の相場は、賃金構造基本統計調査と就業構造基本調査という2つの公的統計を突き合わせれば、有料の単価表を買わなくても自分で確認できます。
- 理由:会社員の賃金統計は「雇われた場合にいくら払われるか」を職種別に示し、就業構造基本調査は「フリーランスとして働く人の年間収入の分布」を示すため、両側から挟み込めます。
- 確認点:統計の数字は月額か年額か、賞与を含むか、経費や社会保険料の事業主負担を含むかで意味が変わります。単位を揃えないまま比べると、数十万円単位でずれます。
「単価の相場」は3つの数字に分解してから調べる
「自分の単価は相場と比べて低いのか」という問いは、そのままでは答えが出ません。比べる相手の数字が、自分の数字と同じ意味になっていないからです。
調べ始める前に、比較する土俵を次の3つのどれかに固定してください。
| 物差し | 中身 | 主に使う場面 |
|---|---|---|
| 月額単価 | 1か月あたりの請求額(売上) | 常駐・準委任の契約更新 |
| 時間単価 | 月額単価 ÷ その月の稼働時間 | スポット案件・受託制作 |
| 年間収入 | 1年分の売上、または所得 | 会社員との生涯比較、住宅ローン |
厄介なのは、公的統計が使うのはこのうち「月額」と「年額」で、しかもフリーランスの単価とは意味が違う点です。賃金構造基本統計調査が公表する所定内給与額は、毎月きまって支給される現金給与額から残業代などの超過労働給与額を除いたもので、賞与は含まれません。一方でフリーランスの月額単価は経費も税も社会保険料も引く前の売上です。
自分の単価から手元に残る金額を先に出しておくと、この後の比較が一気に楽になります。手取りから逆算する考え方は報酬単価を必要手取りから逆算する方法で整理しています。
公的データ①:賃金構造基本統計調査で「雇われた場合」の水準を押さえる
厚生労働省の賃金構造基本統計調査は、5人以上の常用労働者を雇う事業所を対象にした基幹統計です。最新は令和7年(2025年)調査で、令和8年(2026年)3月24日に公表され、賃金は2025年6月分が対象です。
一般労働者(短時間労働者を除く)の所定内給与額は、男女計で33万4,060円ではなく340.6千円、つまり34万600円(前年比3.1%増)。男性373.4千円、女性285.9千円で、男女間賃金格差(男=100)は76.6でした。
産業別に見ると、フリーランスが多い分野の水準は次のとおりです(いずれも令和7年6月分、男女計)。
| 産業 | 所定内給与額 | 前年比 |
|---|---|---|
| 学術研究、専門・技術サービス業 | 440.3千円 | +9.6% |
| 情報通信業 | 406.0千円 | +3.8% |
| 建設業 | 366.3千円 | +3.9% |
| 産業計 | 340.6千円 | +3.1% |
| 宿泊業、飲食サービス業 | 277.2千円 | +2.9% |
雇用形態別では、正社員・正職員が358.8千円、正社員・正職員以外が241.7千円。年齢階級別(男女計)では30〜34歳312.3千円、35〜39歳340.6千円、40〜44歳364.3千円、45〜49歳377.9千円と推移します。自分と同年代・同業界の会社員がどのあたりにいるかは、この表だけでおおよそ掴めます。
職種単位まで降りるにはe-Statを使う
概況の冊子に載るのは産業別までです。職種別のデータはe-Stat側の統計表にあり、令和7年調査分は2026年3月24日に公開されています。「賃金構造基本統計調査」→「令和7年賃金構造基本統計調査」→「一般労働者」→「職種」と辿ると、「職種(小分類)別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)」などの表がExcelで落とせます。労働者数・所定内給与額・年間賞与その他特別給与額が職種ごとに並ぶので、自分の職種名で検索すれば該当行が見つかります。
職種名がうまく特定できないときは、厚生労働省の職業情報提供サイト「job tag」で年収帯や求人賃金から職業を逆引きし、そこで出た職業名を統計表で探す順番が早いです。
公的データ②:就業構造基本調査でフリーランス側の分布を見る
会社員の賃金だけでは片側しか見えません。もう一方は総務省統計局の就業構造基本調査です。令和4年調査は2022年10月1日現在の状況を調べ、令和5年(2023年)7月21日に結果が公表されました。この調査から「フリーランス」(実店舗がなく、雇人もいない自営業主または一人社長であって、その仕事で収入を得る者)が集計項目に加わっています。
- フリーランスの数は計257.4万人。うち本業がフリーランスの者は209.4万人で、有業者に占める割合は3.1%
- 年齢階級別では45〜49歳が24.5万人で最多、50〜54歳24.4万人、55〜59歳22.5万人と続く
- 産業別に有業者に占める本業フリーランスの割合を見ると、学術研究・専門・技術サービス業が13.5%で最も高く、建設業10.7%、不動産業・物品賃貸業10.7%、情報通信業5.2%
この調査の真価は人数ではなく分布にあります。統計表「男女、職業、所得(主な仕事からの年間収入・収益)、現職の就業形態に就いている理由別人口(フリーランスの者(本業))」では、職業別に年間収入の階級分布が取れます。平均値ではなく階級で見られるので、「自分は同職種の上から何割あたりか」を直接確認できるのが利点です。
ただし注意点があります。この収入は売上ではなく「主な仕事からの年間収入・収益」であり、稼働時間もフルタイムとは限りません。低い階級が厚く出るのは、短時間で営む人が一定数含まれるためです。分布の下の方を見て安心も落胆もしないでください。
会社員の賃金と自分の単価を同じ土俵に載せる
ここが手順の核心です。統計の34万600円と、自分の月額単価60万円は、そのまま比べられません。片側ずつ調整します。
会社員側に足すもの
- 年間賞与その他特別給与額(統計表に別欄がある)
- 社会保険料の事業主負担。厚生年金保険料率は平成29年9月分以降18.3%で固定され、令和8年度(2026年度)も18.3%、労使折半なので事業主が9.15%を別途負担しています。健康保険や労災保険の事業主負担も加わります
- 有給休暇、傷病時の保障、教育研修など金額に出にくい部分
フリーランス側から引くもの
- 経費(機材、通信、交通、外注、書籍など)
- 非稼働月。年12か月すべて埋まる前提は危険です
- 国民年金・国民健康保険・所得税・住民税、課税事業者なら消費税の納付分
たとえば月額単価60万円で年10.5か月稼働なら年商630万円。ここから経費率15%、税・社会保険を差し引くと手元は大きく目減りします。契約形態によって源泉徴収の有無や入金までの日数も変わるため、フリーランスエンジニアの単価と手取り:契約形態で変わるお金の流れで自分の契約に当てはめて確認しておくと、比較の精度が上がります。
時間単価に直す場合は、統計側に稼働時間の前提がないので、自分の実稼働時間を自分で決めて割るしかありません。月160時間と置くか、実績の平均を使うかで数字は変わります。どちらを使ったかを記録しておくと、翌年の比較がぶれません。
相場とのズレをどう読むか:強気材料・リスク・判断条件
数字が出たら、次は解釈です。ここで参考になるのが、公正取引委員会と厚生労働省が共同で実施した「フリーランス取引の状況についての実態調査(法施行前の状況調査)」です。令和6年5月27日〜6月19日にWEBアンケート形式で行われ、回答は5,300件(委託者3,761件、フリーランス1,539件)。直近1年程度に業務委託の実績があった回答(委託者1,090件、フリーランス782件)が集計対象です。令和6年10月18日に公表されました。
- 報酬の額について「十分に協議を行い決定された」と回答しなかったフリーランスは67.1%(委託者側は22.2%)。業種別では教育・学習支援業85.9%、学術研究・専門技術サービス業75.6%、情報通信業66.3%
- 価格転嫁を一部しか、または全くできなかったと回答したフリーランスは62.5%。生活関連サービス業・娯楽業73.9%、情報通信業73.5%、建設業72.7%
- フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)の内容を知らないと回答したフリーランスは76.3%
つまり、自分の単価が相場より低いこと自体は珍しくなく、相場を知らないまま据え置かれている状態が広く起きている、と読むのが妥当です。調査に寄せられた声にも「報酬額は一方的に決められている、なかなか交渉は切り出せない」(通訳)、「単価交渉には一切答無視状態」といった記述があります。
そのうえで、相場と自分の位置を突き合わせたときの判断材料を並べます。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 強気材料 | 同職種の統計値が前年比で上昇している/自分の稼働率が高く空き枠がない/代替の効きにくいスキルや業務知識がある |
| リスク | 統計は6月時点や5年前時点の値で、足元の需給とずれる/単価を上げた結果として稼働時間が減り年収が下がる/取引先を1社に依存していると交渉が決裂したとき収入がゼロになる |
| 判断条件 | 相場との乖離が2割を超え、かつ直近半年で断った案件がある場合は交渉の検討余地/乖離が1割以内なら据え置いて実績を積む/収入源が1社のみなら交渉より先に取引先の分散 |
なお、フリーランス法第5条第1項第4号は、同種の給付に通常支払われる対価に比べ著しく低い報酬額を不当に定めること(買いたたき)を禁じています。相場データは、交渉の材料であると同時に「著しく低い」かどうかを説明する根拠にもなります。物価上昇分の転嫁を申し入れたのに協議に応じてもらえない、といった状況が続く場合は、公正取引委員会や厚生労働省の相談窓口を確認する選択肢もあります。
まとめ
単価相場を調べる手順は、次の5ステップに畳めます。
- 月額・時間単価・年間収入のどれで比べるかを決める
- 賃金構造基本統計調査(令和7年調査、令和8年3月24日公表、2025年6月分)で産業別・年齢階級別の水準を押さえ、e-Statの職種別統計表で自分の職種まで降りる
- 就業構造基本調査(令和4年調査、令和5年7月21日公表)の職業別・年間収入階級の分布で、フリーランス側の位置を確認する
- 会社員側に賞与と社会保険料の事業主負担(厚生年金は令和8年度も18.3%、労使折半)を足し、自分側から経費・非稼働月・税社保を引いて土俵を揃える
- 乖離幅と取引先の分散状況を見て、交渉するか据え置くかを決める
統計は過去のある時点を切り取ったものです。公表時点と調査時点のずれ(賃金統計なら公表から見て9か月前、就業構造基本調査なら約4年前)を意識して使えば、根拠のある数字として交渉の場に持ち込めます。年に一度、決算期に合わせて更新する運用にしておくと、単価の据え置きに気づけます。
本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
出典
- 厚生労働省「令和7年(2025年)賃金構造基本統計調査の概況」(令和8年3月24日公表。賃金は令和7年6月分、賞与等は令和6年1月〜12月の1年間)
- 政府統計の総合窓口(e-Stat)「令和7年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種」(2026年3月24日公開。職種小分類・大分類別の統計表)
- 総務省統計局「令和4年就業構造基本調査 結果の要約」(令和5年7月21日公表。2022年10月1日現在、約54万世帯を対象)
- 公正取引委員会・厚生労働省「フリーランス取引の状況についての実態調査(法施行前の状況調査)結果について」(令和6年10月18日公表。調査期間 令和6年5月27日〜6月19日、回答5,300件)
- 厚生労働省「厚生年金保険料率の引上げが終了します」(平成29年8月公表。平成29年9月分以降、保険料率18.3%で固定)
- 厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)「賃金・求人倍率から検索」(2026年9月12日閲覧)