純損失の繰越控除と所得の判定:合計所得金額・総所得金額等を分ける
- 結論:純損失の繰越控除をすると、==合計所得金額==は控除の「前」、==総所得金額等==は控除の「後」の金額になります。所得控除を差し引いた課税所得はさらに別の数字です。
- 理由:国税庁の専門用語集が、繰越控除を受けている場合の扱いを「適用前」「適用後」と定義し分けているためです(令和8年4月1日現在法令等)。
- 確認点:扶養や配偶者の要件は合計所得金額、ふるさと納税の寄附金控除の上限は総所得金額等を参照します。課税所得がゼロでも、判定に使う所得までゼロになるとは限りません。
事業で赤字が出た年の翌年以降、繰り越した純損失を差し引いて申告すると、申告書には「所得」と名の付く数字がいくつも並びます。配当や株の売却益など投資の収入もある個人事業主は、なおさら見分けにくくなります。
この記事では、国税庁の公式定義と「確定申告の手引き(損失申告用)」の作成順序をもとに、どの判定でどの所得を見るのかを整理します。数値と定義は2026年10月22日時点で国税庁サイトを確認したものです。
3つの所得は「どこまで差し引いたか」で分かれる
まず全体像です。同じ年分の申告でも、差し引く段階によって所得の名前が変わります。
| 段階 | 名称 | 繰越控除 | 所得控除 |
|---|---|---|---|
| 損益通算まで済ませた金額 | 合計所得金額 | 差し引く前 | 差し引く前 |
| 繰越控除を差し引いた金額 | 総所得金額等 | 差し引いた後 | 差し引く前 |
| 所得控除を差し引いた金額 | 課税される所得金額 | 差し引いた後 | 差し引いた後 |
注意したいのは、合計所得金額と総所得金額等はどちらも所得控除の前だという点です。社会保険料控除や基礎控除をいくら差し引いても、この2つの金額は変わりません。両者の違いは、繰越控除を差し引く前か後か、という一点だけです。
合計所得金額は繰越控除の前、総所得金額等は後
国税庁「専門用語集」(令和8年4月1日現在法令等)は、2つの用語の計算の土台を同じ文言で定めています。
- 事業所得、不動産所得、給与所得、総合課税の利子所得・配当所得・短期譲渡所得、雑所得の合計額(損益通算後)
- 総合課税の長期譲渡所得と一時所得の合計額(損益通算後)の2分の1
- これに退職所得金額と山林所得金額を加える
- 申告分離課税の所得があれば、その所得金額(長期・短期譲渡所得は特別控除前の金額)も加える
違いは但し書きにあります。次の繰越控除を受けている場合、総所得金額等は「その適用後の金額」、合計所得金額は「その適用前の金額」をいいます。
- 純損失や雑損失の繰越控除
- 居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除
- 特定居住用財産の譲渡損失の繰越控除
- 上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除
- 特定投資株式に係る譲渡損失の繰越控除
- 先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除
投資収入がある人は、申告分離課税を選んだ上場株式等の配当や譲渡益も合計所得金額に加わる点を押さえておきましょう。前年以前から繰り越した上場株式等の譲渡損失を差し引いても、合計所得金額は差し引く前の金額で判定します。
損失申告で数字が決まる順番
純損失を繰り越せる範囲は、令和7年分の手引き(令和7年11月1日現在の法令等)で次のように説明されています。
- 損益通算をしても引ききれない純損失は、翌年以後3年間繰り越せる
- 損失が出た年分に確定申告書を出し、その後も連続して確定申告書を出す必要がある
- 青色申告者は、居住用財産に係る通算後譲渡損失と、前年への繰戻し還付を請求した部分を除き、純損失の全額を繰り越せる
- 白色申告者は、変動所得の損失(事業から生じたものに限る)、被災事業用資産の損失、雑損失に限られる
申告書は次の順序で作ります。
- 第一表・第二表に収入金額と所得金額を書く
- 第四表(損失申告用)で損益通算をし、繰越損失を差し引く
- 第一表・第二表に所得控除を書く
- 所得控除の合計と税金の計算に進む
手順2が終わった段階の数字が総所得金額等に、所得控除を差し引く手順3〜4の後が課税所得にあたります。第四表の書き方は「赤字の繰越は申告書第四表で行う:純損失の記入手順と翌年以降の使い方」で詳しく解説しています。
投資収入との関係で見落としやすい点もあります。手引きによると、繰り越した純損失は、分離課税の上場株式等の配当所得等や株式等の譲渡所得等の黒字からは差し引けません。事業の赤字の繰越で、分離課税の配当所得等の黒字まで消えるわけではない点に注意してください。
判定ごとに参照する所得を確かめる
主な判定と、そこで使う所得の名称をまとめます。
| 判定・計算 | 参照する所得 | 公式資料の記載(基準日) |
|---|---|---|
| 同一生計配偶者・扶養親族の所得要件 | 合計所得金額 | 62万円以下。令和8年12月1日施行で令和8年分から適用。令和7年分は58万円以下(専門用語集、令和8年4月1日現在) |
| 控除対象配偶者(本人側の要件) | 本人の合計所得金額 | 1,000万円以下(同上) |
| ふるさと納税の寄附金控除(所得税) | 総所得金額等 | 控除対象となる寄附金の額は総所得金額等の40%が上限(No.1155、令和8年4月1日現在) |
| 雑損控除・医療費控除・寄附金控除の計算 | 第四表の専用欄の金額 | 繰越損失を差し引いた後の金額を転記(令和7年分手引き) |
令和7年分の手引きでは、雑損控除・医療費控除・寄附金控除の計算に使う金額を、第四表の「雑損控除、医療費控除及び寄附金控除の計算で使用する所得金額の合計額」欄で求めます。計算式は、各所得の合計から「本年分で差し引く損失額」と繰り越した株式等の譲渡損失などを差し引くものです。つまり繰越控除後の金額を使うので、総所得金額等の考え方と一致します。
所得控除それぞれの要件は「フリーランスが使える所得控除の一覧:申告で漏れやすい控除と必要書類」で整理しています。
「課税所得ゼロなら全部ゼロ」ではない理由
繰越控除と所得控除で課税所得がゼロになっても、判定に使う所得まで同じとは限りません。理由は2つあります。
合計所得金額は繰越控除の影響を受けない
繰り越した純損失で総所得金額等が小さくなっても、合計所得金額は繰越控除前の金額のままです。家族の扶養に入れるかどうかを考えるとき、「繰越控除で所得が消えたから要件を満たす」とは判断できません。判定では繰越控除前の金額で62万円(令和8年分)などの基準と比べます。
所得控除はどちらの金額も減らさない
基礎控除や社会保険料控除で課税所得がゼロになっても、合計所得金額と総所得金額等は所得控除前の数字です。課税所得だけを見て「所得ゼロ」と書類に記入すると、名称の取り違えにつながります。
ふるさと納税は上限と効果を分けて考える
寄附金控除の上限は総所得金額等の40%なので、繰越控除で総所得金額等が小さくなると上限も下がります。また、No.1155は「寄附金控除を適用しても最終的な所得税等の額に異動がない場合」に触れ、その場合は更正の請求ができず、市区町村に相談するよう案内しています。所得税と住民税では控除の仕組みが異なるため、繰越控除がある年の寄附は個別に試算して確かめてください。試算の考え方は「フリーランスのふるさと納税:限度額の試算と注意点」で扱っています。確定申告で寄附金控除を受けるなら、第二表の「住民税に関する事項」の記入も必要です。
まとめ
- 合計所得金額は純損失などの繰越控除の前、総所得金額等は繰越控除の後の金額で、どちらも所得控除の前です
- 課税所得は所得控除まで差し引いた後の数字で、上の2つとは別物です
- 扶養や配偶者の要件は合計所得金額、ふるさと納税の上限は総所得金額等で判定します
- 繰り越した純損失は、分離課税の株式等の配当所得等や譲渡所得等の黒字からは差し引けません
- 2026年10月22日時点で確認できた損失申告用の手引きは令和7年分です。令和8年分の申告では、令和8年分の手引きが公表された後に記載を確かめてください
有利か不利かは、所得の構成や家族の状況によって変わります。判断に迷うときは、税務署や税理士に確認してください。
本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
出典
- 国税庁「専門用語集」(令和8年4月1日現在法令等、2026年10月22日確認)
- 国税庁「令和7年分 所得税及び復興特別所得税の確定申告の手引き(損失申告用)」(令和7年11月1日現在の法令等、2026年10月22日確認)
- 国税庁 確定申告書等作成コーナー用語集「合計所得金額」(令和7年分、2026年10月22日確認)
- 国税庁 確定申告書等作成コーナー用語集「総所得金額等」(令和7年分、2026年10月22日確認)
- 国税庁 タックスアンサーNo.1155「ふるさと納税(寄附金控除)」(令和8年4月1日現在法令等、2026年10月22日確認)