この記事の結論
  • 結論:前年と赤字の年の両方で青色申告をしていれば、赤字(純損失)を前年の所得から差し引いて、前年に納めた所得税の一部を取り戻せます。
  • 理由:所得税法第140条で、青色申告者は純損失の金額を前年分に繰り戻して還付を請求できると定められています。
  • 確認点:赤字の年の青色申告書を期限内に出し、同時に還付請求書を提出する必要があります。繰り戻した分は翌年以後へ繰り越せず、復興特別所得税は戻りません。

事業が赤字になった年は「今年の税金がゼロになる」だけで終わりにしがちです。ただ、青色申告者には、その赤字を前年に繰り戻して所得税の還付を受けるという選択肢もあります。この記事では、国税庁の資料と所得税法の条文をもとに、純損失の繰戻し還付の条件・期限・計算方法と、繰越控除との比べ方を整理します(制度の内容は2026年10月10日時点で確認したものです)。

純損失の繰戻し還付とは

国税庁タックスアンサーNo.2070(令和8年4月1日現在の法令等)では、青色申告の特典として次のように説明されています。

  • 損益通算をしても控除しきれない損失(純損失の金額)は、翌年以後3年間にわたって繰り越し、各年分の所得金額から控除できる
  • 前年も青色申告をしている場合は、繰越しに代えて、損失額をその前年分の所得金額に繰り戻して控除し、前年分の所得税額の還付を受けることもできる

純損失とは、事業所得・不動産所得・譲渡所得・山林所得の4つの所得の損失のうち、損益通算をしても控除しきれない金額のことです(令和7年分 確定申告の手引き 損失申告用)。

繰越控除の基本から確認したい方は、純損失の繰越控除:赤字の年の確定申告もあわせてご覧ください。

還付を受けるための条件

所得税法第140条第4項では、適用できるケースを次のように限定しています。

条件内容
前年分前年分の所得税について青色申告書を提出している
赤字の年分その年分の青色申告書を提出期限までに提出している
請求のタイミング確定申告書の提出と同時に、納税地の所轄税務署長へ請求する

還付請求書の「書き方」にも、「繰戻しを行う純損失の金額が生じた年分の確定申告書とともに確定申告期限までに提出してください」と書かれています。期限を過ぎてから申告すると、繰戻し還付は使えないと考えておくのが安全です。

前年が白色申告だった人は、そもそもこの制度の対象外です。なお白色申告者の場合、繰り越せる損失も変動所得の損失や被災事業用資産の損失などに限られます(同手引き)。青色申告の要件を確認するときは、青色申告特別控除の要件チェックリストが参考になります。

事業の廃止・相続の場合

同条第5項では、事業の全部の譲渡や廃止などがあった場合、その前年に生じた純損失を前々年分に繰り戻すことも認めています。還付請求書にも「廃止・休止・譲渡・相続」を選ぶ欄があります。また、納税者が亡くなった場合に相続人が請求するときの規定は第141条にあります。

還付額の計算方法と計算例

還付請求書の「還付請求金額の計算書」は、次の流れで計算します。

  1. 前年分の課税される所得金額(総所得・山林所得・退職所得)と、それに対する税額を、前年の申告書の控えから写す
  2. その所得金額から、繰り戻す純損失の金額を差し引く
  3. 差し引いた後の所得金額に、前年分の税率表を当てはめて税額を計算し直す
  4. 「1の税額 − 3の税額」が還付額。ただし、前年分の源泉徴収税額を差し引く前の所得税額が上限

計算上の注意点は次のとおりです。

  • 分離課税の所得(上場株式等の譲渡所得・配当所得等、土地建物等の譲渡所得、先物取引の雑所得等)は、計算の対象から外れる
  • 復興特別所得税の還付は請求できない(請求書に明記)
  • 純損失は全額を繰り戻す必要はなく、一部だけ繰り戻して残りを翌年以後3年間に繰り越すこともできる
  • 繰り戻した金額は、翌年以後に繰り越せない(手引き 損失申告用)

計算例(仮の数字)

令和7年分の所得税の速算表(タックスアンサーNo.2260、令和8年4月1日現在の法令等)を使って試算します。

項目金額
前年(令和7年分)の課税所得500万円
前年の算出税額500万円×20%−42万7,500円=57万2,500円
当年(令和8年分)の純損失200万円(全額を繰り戻す)
繰戻し後の課税所得300万円
繰戻し後の税額300万円×10%−9万7,500円=20万2,500円
還付される所得税37万円

この例は、税額控除や平均課税などを考えない単純化したモデルです。前年に変動所得・臨時所得の平均課税を使った人は計算が複雑になるため、請求書の書き方でも税務署への相談が勧められています。

繰戻し還付と繰越控除の比べ方

どちらを選ぶかは、「いつ」「どの税率で」赤字を使うかで決まります。

観点繰戻し還付繰越控除
効果が出る時期赤字の年の申告後(現金で戻る)翌年以後3年間の税負担が減る
適用される税率前年の税率黒字に戻った年の税率
条件前年・当年とも青色申告、期限内申告赤字の年に青色申告、その後も連続して確定申告
対象の税所得税のみ(復興特別所得税は対象外)繰り越した年の所得から控除

繰戻し還付が向いている傾向

  • 前年の所得が高く、税率の高い区分で課税されていた
  • 運転資金が足りず、すぐに手元資金がほしい
  • 今後数年は大きな黒字を見込みにくい

繰越控除が向いている傾向

  • 翌年以後に前年より高い税率の所得を見込んでいる
  • 前年の課税所得が少なく、繰り戻しても戻る税額が小さい

一部だけ繰り戻し、残りを繰り越す組み合わせもできます。前年の税率区分の境目まで繰り戻し、残りを繰り越すといった調整も検討の余地があります。ただし、この記事で扱っているのは所得税の制度です。住民税の扱いは別に確認してください。

提出の手続きと還付までの流れ

  1. 赤字の年分の確定申告書(第一表・第二表と第四表〈損失申告用〉)と青色申告決算書を作る
  2. 「純損失の金額の繰戻しによる所得税の還付請求書」を作る(純損失が生じた年分、繰り戻す年分、計算書、還付金の受取口座を記入)
  3. 確定申告期限(原則3月15日)までに、申告書と一緒に所轄の税務署へ提出する
  4. 書面で出す場合は、マイナンバーの記入と本人確認書類の提示または写しの添付が必要

提出後、税務署長は純損失の金額などを調査したうえで、還付するか、理由がない旨を書面で通知します(所得税法第142条第2項)。通常の還付申告より時間がかかることがあります。還付加算金の計算期間は、請求日(期限前に請求した場合は提出期限)の翌日から3か月を過ぎた日以後とされています(同条第3項)。

まとめ

  • 純損失の繰戻し還付は、前年・当年とも青色申告で、当年分を期限内に申告した場合に使える
  • 還付請求書は、赤字の年の確定申告書と同時に提出する
  • 還付額は前年の税率で計算し直した差額で、前年の所得税額が上限。復興特別所得税は戻らない
  • 繰り戻した金額は繰り越せない。一部だけ繰り戻して残りを3年間繰り越すこともできる
  • 前年の税率が高い場合や資金繰りを優先したい場合は繰戻し、将来の高い所得を見込む場合は繰越控除が有利になりやすい。個別の判断は税務署や税理士に確認すると安心です

本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。

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