この記事の結論
  • 結論:事業が赤字の年でも確定申告をすれば、青色申告者は純損失を翌年以後3年間繰り越して所得から控除でき、将来の税負担を軽くできる。
  • 理由:青色申告者の純損失の繰越控除は所得税法上の制度で、赤字の年に確定申告書と付表を提出しておくことが翌年以降の控除の前提条件になる。申告を怠ると赤字自体が「なかったこと」になり、繰越も繰戻し還付も使えない。
  • 確認点:赤字が出た年に青色申告の確定申告書第四表を提出しているか、翌年以降も連続して確定申告をしているか、国民年金保険料の免除申請など前年所得が基準になる制度への影響も併せて確認する。

独立して間もない時期は、開業費用や設備投資がかさみ、事業所得が赤字になることも珍しくありません。「利益が出ていないのだから確定申告はしなくていい」と考えがちですが、赤字の年こそ確定申告をする意味があるというのが日本の所得税制度の建て付けです。本記事では国税庁の公表資料と日本年金機構の資料をもとに、赤字の年の申告と純損失の繰越控除の仕組みを整理します。

赤字でも確定申告をする意味

所得税は本来、所得がなければ納税義務も生じないため、赤字の年に確定申告をしなくても罰則はありません。しかし、青色申告の承認を受けている個人事業主が赤字の年に確定申告書を提出しておくと、その年に生じた純損失の金額を翌年以後に繰り越して、将来の黒字と相殺できます(国税庁 No.2070 青色申告制度、2026年8月時点の公表情報)。

ここでいう純損失とは、不動産所得・事業所得・譲渡所得・山林所得の4つの所得について損益通算を行ってもなお引ききれない損失部分を指します(国税庁 No.2250 損益通算、2026年8月時点の公表情報)。利子所得や給与所得のようにそもそも損失が発生しない所得、あるいは発生しても他の所得と通算できない所得(生活に通常必要でない資産の損失や、申告分離課税を選択した株式譲渡損など)は対象にならない点に注意が必要です。

赤字を繰り越す権利は、赤字が出た年に確定申告をして初めて発生します。翌年以降に「実は前年赤字だった」と主張しても、申告していなければ繰越控除は使えません。

青色申告者の純損失の繰越控除のしくみ

青色申告者は、その年に生じた純損失の金額を翌年以後3年間にわたって繰り越し、各年分の所得金額から控除できます。なお、令和5年4月1日以後に特定非常災害の指定を受けた災害による損失については、繰越期間が5年間に延長される特例があります(国税庁 No.2070、同上)。

繰越控除には代替手段として、繰戻しによる還付という選択肢もあります。前年も青色申告をしている場合、当年の純損失を繰り越す代わりに前年分の所得金額に繰り戻して控除し、前年分の所得税額の還付を受けることができます。この請求手続は「純損失の金額の繰戻しによる所得税の還付請求書」を、赤字が生じた年分の確定申告書と同時に提出する必要があります(国税庁 A1-4 純損失の金額の繰戻しによる所得税の還付請求手続、2026年8月時点の公表情報)。繰戻しは前年1年分に限られるため、前年の黒字だけでは相殺しきれない損失が残る場合は、残額を翌年以降に繰り越すことになります。

繰越控除と繰戻し還付のどちらが有利かは、前年の所得水準や当面の資金繰りによって変わります。手元資金を早く確保したい場合は繰戻し還付、将来の税率区分を踏まえて長期的に節税したい場合は繰越控除、という判断軸で検討するとよいでしょう。

白色申告との違いを確認する

この純損失の繰越控除は、青色申告の承認を受けている事業者向けの優遇措置です。白色申告では、事業所得の赤字を一般的に翌年以降へ繰り越すことはできません。青色申告と白色申告の控除額・記帳負担の違いについては、青色申告と白色申告の違い:控除と記帳負担を比較で詳しく整理しています。独立直後で赤字が見込まれる場合、青色申告の承認申請を早めに済ませておくかどうかが、数年単位の税負担に影響する判断ポイントになります。

繰越控除・繰戻し還付の手続きの流れ

赤字が生じた年の手続きは次のとおりです。

  • 確定申告書第四表(一)に、損益通算後もなお引ききれない赤字の金額を記載する
  • 確定申告書第四表(二)の「翌年以後に繰り越す損失額」欄に、繰り越す金額を記載する
  • 繰戻し還付を選択する場合は、還付請求書を確定申告書と同時に提出する
  • 期限内申告(原則3月15日まで)を行う

翌年以降、黒字が出た年は次の手続きが必要になります。

  • 確定申告書第四表(二)の「繰越損失を差し引く計算」欄に、前年以前から繰り越されている損失額と、本年分の所得から控除する金額を記載する
  • 控除しきれなかった残額があれば、引き続き翌年に繰り越す

いずれの年も連続して青色申告の確定申告を行っていることが前提条件です。途中で申告を怠った年があると、その時点で繰越の権利が失われる可能性があるため、赤字の年ほど申告を継続する意識が重要になります。

社会保険・年金への波及も確認する

確定申告の所得は、税金だけでなく国民健康保険料や国民年金保険料の免除・猶予制度の判定にも使われます。日本年金機構によると、国民年金保険料の全額免除・納付猶予の所得基準は「(扶養親族等の数+1)×35万円+32万円」の範囲内、4分の3免除は「88万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等」の範囲内など、前年所得を基準に段階的に定められています(日本年金機構 国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度、2026年8月3日更新版)。

事業が赤字の年は、この所得基準を満たしやすくなるケースがあります。純損失の繰越控除で「翌年の所得を減らす」効果を狙う一方で、赤字の年そのものについては国民年金保険料の免除・納付猶予を申請できないか、あわせて確認しておくと家計全体の負担を抑えやすくなります。ただし免除・猶予期間は将来の年金受給額に影響するため、免除を選ぶか保険料を納付するかは長期的な視点で判断する必要があります。

申告作業の前に所得税の基本を確認する

繰越控除の効果を正しく見積もるには、そもそも自分の所得税がどのように計算されているかを理解しておくことが前提になります。累進課税の仕組みや基礎控除・青色申告特別控除の基本については、フリーランスの所得税を累進課税から理解するで解説しています。赤字を繰り越した年に黒字が出た場合、繰越控除後の課税所得に対して累進税率が適用されるため、繰越控除がどの税率区分に影響するかを事前に把握しておくと、資金計画が立てやすくなります。

まとめ

独立前後で事業が赤字になった年でも、確定申告をしておくことで青色申告者は純損失を翌年以後3年間繰り越し、将来の黒字と相殺できます。前年も黒字で青色申告をしていた場合は、繰戻し還付によって前年分の所得税の還付を受ける選択肢もあります。いずれも赤字が出た年に期限内で確定申告書と付表を提出していることが前提条件であり、白色申告では原則として利用できない点にも注意が必要です。あわせて、国民年金保険料の免除・納付猶予など前年所得を基準とする社会保険制度への影響も確認し、税負担と社会保険負担の両面から赤字の年の申告方針を決めることをおすすめします。

本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。

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