この記事の結論
  • 結論:配当の原資は当期の利益ではなく、会社法が定める「分配可能額」。過去の利益の蓄積である利益剰余金が厚ければ、当期が赤字でも配当は法的に可能です。
  • 理由:会社法461条は分配可能額を上限とするだけで、黒字であることを配当の条件にしていません。しかも判定は連結ではなく単体(個別)決算ベースです。
  • 確認点:単体の利益剰余金の残高、営業キャッシュフローと配当金総額の差、そして配当原資に資本剰余金が混じっていないかの3点を決算短信で確かめます。

保有している高配当株が最終赤字に転落したとき、「この配当はいつまで続くのか」と不安になります。ところが実際には、巨額の赤字を出しながら配当を払い続ける企業は珍しくありません。これは会社が無茶をしているとは限らず、会計上の利益と配当の原資がそもそも別の概念だからです。ここを理解すると、「継続できる赤字配当」と「いずれ行き詰まる赤字配当」を分けて考えられるようになります。

配当の原資は「当期の利益」ではなく「分配可能額」

損益計算書の当期純利益は、その1年間の成績を示すフローの数字です。一方、貸借対照表の利益剰余金は、創業以来の利益から配当や損失を差し引いて残った蓄積、つまりストックです。配当が取り崩すのはこのストックのほうなので、単年度のフローが赤字でも、蓄積が残っていれば支払う原資はあります。

会社法は、この考え方を分配可能額という形で条文化しています。会社法461条1項は、剰余金の配当や自己株式の取得によって株主に交付する金銭等の帳簿価額の総額は、効力発生日における分配可能額を超えてはならないと定めています。逆に言えば、法律が課している制約はこの上限だけで、「当期が黒字であること」は配当の要件になっていません。

さらに実務上重要なのが、分配可能額の計算が連結ではなく単体(個別)決算ベースである点です。会社法446条の剰余金の額は、最終事業年度末日の資産・自己株式から負債や資本金・準備金などを差し引いて算定されるもので、対象はあくまで配当を行う「株式会社」自身です。ニュースで報じられる「最終赤字◯◯億円」は連結の数字なので、親会社単体が黒字であれば、配当余力の実態は報道の印象とかなり違うことがあります。

分配可能額はどう計算されるか

大まかな骨格は次のとおりです。

手順内容
① 剰余金の額(会社法446条)決算日の資産+自己株式の帳簿価額-負債-資本金-準備金-法務省令で定める額。実質的には「その他資本剰余金+その他利益剰余金」
② 期中の変動を反映期中の自己株式の処分や資本金・準備金の減少などを加減
③ 控除項目を引く分配時点の自己株式の帳簿価額、事業年度末日後の自己株式処分対価、のれん等調整額などの法務省令で定める額

③ののれん等調整額は「のれん×2分の1+繰延資産」で計算し、資本金と準備金の合計(資本等金額)を上回る部分が控除対象になります。M&Aを繰り返して巨額ののれんを抱えた会社では、帳簿上の剰余金がそのまま配れるわけではない、ということです。

また会社法458条は、純資産額が300万円を下回る場合に剰余金の配当等の規定を適用しないと定めています。個人投資家が投資する上場企業では実際に問題になる水準ではありませんが、「純資産を食い潰してまでは配れない」という下限が法律に置かれていることは押さえておく価値があります。

なお、分配可能額を超えて配当を実施した場合、受け取った株主や業務執行者が会社に対して支払義務を負うため、上場企業がこの上限を破ることはまず起こりません。したがって「配当が出ている=法的には原資がある」と考えてよく、投資家が本当に見るべきは法令違反の有無ではなく、その原資があと何年もつかという持続性の側です。

事例1:資生堂 — 連結赤字でも単体は黒字だった

資生堂(4911)が2025年2月10日に公表した2024年12月期決算短信によると、連結の親会社の所有者に帰属する当期損益は108億13百万円の損失で、基本的1株当たり当期利益はマイナス27円06銭でした。

一方で同社は年間40円(中間30円+期末10円)の配当を実施しています。前期の年間60円からは減配ですが、赤字でも無配にはしていません。その背景は同じ短信の参考情報にあります。2024年12月期の個別(単体)業績は当期純利益215億23百万円と黒字で、純資産は5,083億63百万円。対する配当金総額は159億85百万円です。

つまり連結で赤字を生んでいるのは海外子会社や減損を含む構造改革費用であり、配当を決める親会社単体は子会社からの受取配当金などによって黒字を確保していた、という構図です。同社は2025年12月期も年間40円の配当予想を示しており、連結配当性向は266.3%となる見込みと記載されています。連結利益の2.6倍以上を配るという計画であり、単体の蓄積を使う前提の配当だと読み取れます。

強気に見れば、一過性の構造改革費用を理由に配当を切らない方針は経営の自信の表れです。リスクとして見れば、連結の稼ぐ力が戻らない限り、単体の受取配当金もいずれ細ります。判断条件は「構造改革が計画どおり終わり、連結の当期利益が配当金総額を上回る年に戻るか」に集約されます。

事例2:住友化学 — 減配という「限界」の現れ方

同じ赤字でも、配当を大きく削る判断になる場合があります。住友化学(4005)が2024年5月15日に公表した2024年3月期(2023年度)の連結決算概要では、親会社の所有者に帰属する当期損益が3,118億円の損失、基本的1株当たり当期損益はマイナス190円69銭でした。

この期の1株当たり配当額は9円00銭で、前期の18円00銭から半減しています。財務面では株主資本が9,730億円から6,600億円へ3,130億円減少し、親会社所有者帰属持分比率は28.1%から24.5%へ、D/Eレシオは1.0倍から1.3倍へ悪化しました(いずれも2024年3月末時点)。

資生堂との違いは、赤字の規模が蓄積そのものを削り、同時に有利子負債の重さが増している点です。蓄積の取り崩し速度が自己資本比率やD/Eレシオの悪化として表面化したとき、配当は削られると考えるのが現実的です。財務の安全性を多面的に確認する手順は貸借対照表で企業の財務安全性を確認する方法に、負債側から配当余力を見る方法は有利子負債と利払い負担から高配当株の安全性を見るにまとめています。

利益剰余金以外が原資になるケースを見抜く

分配可能額は「その他利益剰余金」だけでなく「その他資本剰余金」も含みます。資本剰余金は株主が払い込んだ資本の一部なので、これを原資にした配当は税務上、利益の分配ではなく資本の払戻しとして扱われます。

実例として、LINEヤフーは2025年3月期の配当金について、利益剰余金とその他資本剰余金の双方を原資としたQ&Aを公表しています。同社は理由として、安定的な配当の実施と自己資本の構成の最適化を挙げ、2021年3月の経営統合時にその他資本剰余金が大きく増加したことを背景として説明しています。株主側の影響は税務面に及び、配当金のうち一部が源泉徴収の対象となる「みなし配当」、残りが配当所得に該当しない「みなし譲渡収入」に分かれます。同Q&Aでは1株当たりのみなし配当額6.4551222826円、純資産減少割合0.006という具体的な数値と算式が示されており、配当の効力発生日である2025年6月5日時点でみなし譲渡損益が生じるとされています(資料は2025年6月4日付)。

投資家がこれを見落とさないための仕組みも用意されています。東京証券取引所は、配当原資に資本剰余金が含まれる場合、決算短信の配当の状況欄の欄外にその旨を記載し、サマリー情報に1株当たり配当金・資本剰余金を原資とする配当金総額・純資産減少割合の内訳を追加するよう求めています。決算短信の配当欄に注記があるかどうかが、原資の性格を確かめる最初のチェックポイントになります。

資本剰余金からの配当そのものが悪いわけではなく、資本効率の調整として合理的な場合もあります。ただし、利益で稼いだ分を配っているのか、元手を返しているのかは全く別の話です。利回りだけを見ていると、この違いは表に出てきません。

個人投資家が実際に踏む確認手順

赤字企業の配当継続の是非を判断するとき、次の順で一次情報を当たると迷いません。

  1. 決算短信の「2.配当の状況」を見る — 配当性向が「-」なら赤字、100%超なら利益を超えた配当です。欄外に資本剰余金の注記がないかも同時に確認します。
  2. 参考欄の個別(単体)業績を見る — 連結が赤字でも単体が黒字なら、当面の原資はあります。資生堂のケースがこれに当たります。
  3. 有価証券報告書の単体貸借対照表で繰越利益剰余金の残高を見る — 残高を年間の配当金総額で割れば、理論上あと何年配れるかの目安になります。
  4. 営業キャッシュフローと配当金総額を比べる — 利益が赤字でも営業CFが配当を賄えていれば持続性は高く、賄えていなければ手元資金か借入で配っていることになります。
  5. 自己資本比率とD/Eレシオの推移を見る — 住友化学のように悪化が続く場合、次の減配リスクは相応に高まります。

これらはいずれもEDINETや企業のIRサイトで無料で確認できます。解説記事の要約ではなく、短信と有報の原本に当たることが重要です。

まとめ

赤字でも配当が続くのは、会社法461条の分配可能額が過去の蓄積を含めて計算され、しかも単体決算を基準にしているからです。したがって「赤字なのに配当している=危険」とも「法律上OK=安全」とも言い切れません。見るべきは、単体の利益剰余金という貯金があと何年分あるか、営業キャッシュフローが配当を賄えているか、原資に資本剰余金が混ざっていないかの3点です。資生堂のように一過性要因で赤字になっても単体黒字を保つ企業もあれば、住友化学のように蓄積と財務指標の両方が削られて減配に至る企業もあります。数字の基準日を揃えて、同じ項目を2〜3期並べて比べる習慣をつけると、無理な配当は驚くほど見つけやすくなります。

本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。

出典

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本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、正確性・完全性を保証するものではありません。投資に関する最終的な決定は、ご自身の判断と責任において行ってください。

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