この記事の結論
  • 結論:国保の所得割の基準は「前年の総所得金額等−基礎控除」です。確定申告した配当・株式の譲渡所得はここに入ります。上場株式等の譲渡損失を繰越控除した場合は、控除後の金額で数えます。
  • 理由:繰越控除後の総所得金額等を使うと新宿区が明記しています。一方で、繰り越した株式の損失を引けるのは、申告分離課税を選んだ配当と株式の譲渡所得に限られます。
  • 確認点:配当を申告したか、総合課税か申告分離課税か、どの年度の保険料か、どこに住んでいたかを、居住自治体の資料で確かめてください。

事業所得のほかに配当や株式の売買益がある個人事業主にとって、確定申告の内容は所得税だけでなく国民健康保険料にも響きます。この記事では、国保の所得割の基準になる金額を自治体資料の言葉で順にたどり、配当と株式の譲渡損失の繰越控除がどの段階でどう入るかを整理します。自治体の例としては新宿区の資料(2026年4月1日最終更新)を使います。

課税方式の選び方と制度改正の内容は「配当の課税方式は所得税と住民税で揃える:制度変更の内容と選び方の手順」、保険料全体の試算は「国民健康保険料を概算し資金を備える方法」に譲ります。

旧ただし書き所得(算定基礎額)の計算の流れ

国保の所得割の基準になる金額は、一般に「旧ただし書き所得」と呼ばれます。新宿区のページでは「算定基礎額」という用語で、次のように説明されています(2026年4月1日最終更新時点)。

> 所得割額は、算定基礎額(前年中の総所得金額等から基礎控除額43万円(合計所得金額2,400万円以下の場合)を差し引いた額)を基に計算します。

順番に分けると次のとおりです。

段階内容(新宿区の資料による)
① 前年中の所得を集める総所得金額(事業所得・総合課税の配当所得など)と申告分離課税の所得を合計する
② 繰越控除を当てる純損失の繰越控除と上場株式等に係る繰越控除を適用した後の金額にする(雑損失の繰越控除は適用しない)
③ 基礎控除を引く合計所得金額2,400万円以下の場合は43万円を引く
④ 0円未満の扱い算定基礎額が0円未満になる場合は0円として扱う

ここで押さえたいのは、②の繰越控除は総所得金額等を出す段階で反映されること、そして③の基礎控除以外の所得控除は差し引かれないことの2点です。

総所得金額等に入る配当・株式の所得

新宿区の資料では、国保の総所得金額等は次の(1)と(2)の合計です。

  • (1)総所得金額:事業所得、不動産所得、利子所得、給与所得、総合課税の配当所得、総合譲渡所得、雑所得、一時所得
  • (2)申告分離課税の所得:上場株式等に係る配当所得の金額、土地建物等の譲渡所得等、長期・短期譲渡所得(特別控除適用後)、株式等に係る譲渡所得等の金額、先物取引に係る雑所得等、山林所得

配当は、総合課税を選べば(1)に、申告分離課税を選べば(2)に入ります。どちらを選んでも、申告すれば総所得金額等に含まれる点は変わりません。

申告した配当と申告不要の配当

新宿区は、特定口座で源泉徴収を受けた配当(特定配当等所得)や譲渡益(特定株式等譲渡所得)は総所得金額等に含めず、確定申告した場合は含めると明記しています。

配当・譲渡益の扱い国保の総所得金額等
源泉徴収ありの特定口座で申告しない含めない
確定申告に含めた(総合課税)総所得金額の「総合課税の配当所得」として含める
確定申告に含めた(申告分離課税)「上場株式等に係る配当所得の金額」などとして含める

国税庁No.1330(令和8年4月1日現在法令等)によると、上場株式等の配当等は、大口株主等が受け取るものを除き、金額にかかわらず確定申告不要を選べます。源泉徴収口座で受け取った配当は口座ごとに選ぶ仕組みです。特定口座内の損益通算の基本は「特定口座の配当金と損益通算・確定申告の基本」で扱っています。

上場株式等の譲渡損失の繰越控除はどこから引けるか

国税庁No.1474(令和8年4月1日現在法令等)によると、上場株式等の譲渡損失は、確定申告によって、その年の上場株式等に係る配当所得等の金額と損益通算できます。ただし配当所得は「申告分離課税を選択したものに限ります」とされています。引ききれない損失は、翌年以後3年間、上場株式等に係る譲渡所得等の金額と上場株式等に係る配当所得等の金額から繰越控除できます。

ここから、国保の算定で取り違えやすい点が見えてきます。

  • 総合課税を選んだ配当は、繰り越した株式の損失と相殺できない。総合課税の配当所得は(1)の総所得金額にそのまま残る
  • 申告分離課税を選んだ上場株式等の配当と、上場株式等の譲渡所得からは繰越損失を引ける。新宿区の資料では、総所得金額等は上場株式等に係る繰越控除を適用した後の金額となる
  • 繰り越した損失は、一般株式等の譲渡所得等からは控除できない(No.1474 注1)
  • 相対取引で生じた譲渡損失や、NISA口座内で生じた譲渡損失は、損益通算も繰越控除もできない(No.1474 注2・注3)

繰越控除を受けるには、損失が出た年から付表を添付した確定申告を毎年続ける必要があります。上場株式等の譲渡がなかった年も申告が必要です(No.1474)。連続申告と付表の手順の詳細は、この記事では扱いません。

なお、損失を使うために配当や譲渡益を申告に含めると、それらは総所得金額等の計算に入ります。最終的に算定基礎額がどう動くかは、損失・配当・譲渡益の金額の組み合わせで変わります。この記事では有利・不利を一律には判断しません。

合計所得金額・総所得金額等・控除を区別する

似た名前の金額が3つあり、使われる場面がそれぞれ違います。

用語繰越控除主な使われ方
合計所得金額国税庁の定義では、上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除などを適用する前の金額新宿区の資料では、基礎控除43万円を引けるかどうかの「2,400万円以下」の判定に使う
総所得金額等国税庁の定義では、上記の繰越控除を適用した後の金額国保の算定基礎額の出発点
算定基礎額――総所得金額等から基礎控除を引いた金額(0円未満は0円)

国税庁の用語集(令和8年4月1日現在法令等)では、合計所得金額と総所得金額等は所得の範囲が同じで、違いは繰越控除の前か後かだけです。繰越損失がある年は、基礎控除の判定に使う金額(控除前)と保険料の基準になる金額(控除後)がずれます。基礎控除の判定に使う合計所得金額を具体的にどう扱うかは、居住自治体に確認してください。

税の総所得金額等とそのまま一致しない点

新宿区の国保の総所得金額等は、国税庁が定義する総所得金額等と次の点で扱いが異なります。

  • 退職所得:国税庁の定義では加算するが、新宿区の国保では含めない
  • 雑損失の繰越控除:国税庁の定義では適用後の金額だが、新宿区の国保では適用しない
  • 長期・短期譲渡所得:国税庁の定義では特別控除前の金額を加算するが、新宿区の国保では特別控除適用後の金額

国保では引かれない控除

新宿区の資料では、配偶者控除・扶養控除・社会保険料控除・医療費控除などの所得控除や、住宅ローン控除などの税額控除は適用されません。確定申告書の「課税される所得金額」とは別の金額だと考えてください。総合課税の配当で受ける配当控除も税額を計算する仕組みなので、国保の算定基礎額を減らすものではありません。

対象年度と居住自治体を確かめる

最後に、どの年の所得がどこの保険料に使われるかを確認します。

  • 新宿区の資料では、所得割は「前年中」の総所得金額等で計算する。保険料の年度と所得の年を1年ずらして照らし合わせる
  • 新宿区は令和8年度から子ども・子育て支援金分を加算するとしており、保険料の区分は年度ごとに見直される
  • 総所得金額等に何を含めるか、繰越控除をどう扱うかは、この記事では新宿区の資料(2026年4月1日最終更新)を例にしている。実際には保険料を賦課する居住自治体のページで、同じ年度の記載を確認する
  • 確定申告の内容(申告不要か、課税方式、繰越控除の有無)は、所得税と住民税の課税方式を揃えるルールと合わせて決まる。詳しくは課税方式の記事を参照

まとめ

  • 国保の旧ただし書き所得(新宿区の用語では算定基礎額)は「前年中の総所得金額等−基礎控除」で計算する
  • 源泉徴収口座の配当・譲渡益は、申告しなければ含めず、申告すれば含める
  • 上場株式等の譲渡損失の繰越控除は総所得金額等の段階で反映されるが、引けるのは申告分離課税の上場株式等の配当と上場株式等の譲渡所得だけ。総合課税の配当には使えない
  • 基礎控除の判定に使う合計所得金額は繰越控除前、算定の出発点の総所得金額等は繰越控除後で、ほかの所得控除は国保では引かれない
  • 対象年度と居住自治体の定義は、毎年公式資料で確認する

本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。

出典

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