この記事の結論
  • 結論:第一生命ホールディングス(2026年4月1日付で「株式会社第一ライフグループ」に商号変更、東証プライム:8750)は2026年3月期にグループ修正利益5,515億円と3期連続の最高益を更新し、2027年3月期は配当性向を毎期50%以上へ引き上げて1株72円(前期比+32%)を予想している。
  • 理由:国内金利上昇を捉えた債券入替えによる順ざや拡大と、国内株式の売却益(2026年3月期で約8,000億円の売却)が利益を押し上げ、還元原資となる「グループ修正利益の直近3年平均」が切り上がっているため。
  • 確認点:株式売却益という一時的な原資への依存度、国内債券の含み損(2026年6月末で第一生命単体4兆406億円)、そしてグループESRが2026年3月末の約220%から6月末に約206%へ低下した点を、四半期ごとの決算短信・決算概要資料で追う必要がある。

第一生命ホールディングス(現・第一ライフグループ)はどんな会社か

まず社名の整理からです。第一生命ホールディングスは、2025年6月23日開催の第15期定時株主総会の決議に基づき、2026年4月1日付で「株式会社第一ライフグループ」へ商号変更しました(証券コード8750は変更なし)。有価証券報告書(第124期、2026年6月16日提出)にもこの経緯が記載されています。以下では現商号で表記します。

同社は1902年9月に日本初の相互会社形態の保険会社として設立され、2010年4月に株式会社化して上場、2016年10月に持株会社へ移行しました。有価証券報告書によると2026年3月31日現在の子会社は198社・関連会社は25社、連結従業員数は60,138名、総資産は74兆1,590億円です。

事業構成は大きく3つに分かれます。

区分主な会社
国内保険事業第一生命(DL)、第一フロンティア生命(DFL)、第一ネオ生命(DNL)、第一アイペット損保
海外保険事業プロテクティブ(米国・PLC)、TAL(豪州)、パートナーズ・ライフ(NZ)、第一ライフ・ベトナム 等
その他事業ベネフィット・ワン、アセットマネジメントOne、キャニオン・パートナーズ 等

同じ保険セクターでも、損保との利益構造の違いは大きく異なります。比較の視点は東京海上ホールディングスの保険収益と資本政策を分析すると併読すると整理しやすくなります。

2026年3月期の実績:グループ修正利益5,515億円

2026年5月15日公表の決算短信および決算概要資料によると、2026年3月期(2025年4月〜2026年3月)の実績は次の通りです。

項目2025年3月期2026年3月期
経常収益9兆8,766億円11兆3,082億円(+14.5%)
経常利益7,557億円7,536億円(△0.3%)
親会社株主に帰属する当期純利益4,584億円4,365億円(△4.8%)
グループ修正利益4,395億円5,515億円(+25%)
グループ修正ROE10.7%12.7%
1株当たり当期純利益123.72円119.83円

ここが生保分析の最初の関門です。会計上の当期純利益は減益なのに、グループ修正利益は+25%の増益で3期連続の最高益という、方向が逆の数字が並びます。

差の主因は、米国子会社プロテクティブが2026年3月期から米国会計基準LDTI(Long-Duration Targeted Improvements)を適用し、比較年度である2025年3月期の当期純利益に288億円の遡及修正(押し上げ)が入ったことです。会社側はこれを一時的なものと説明しています。グループ修正利益はMVA関連損益やのれん償却額などを調整した同社独自の指標で、株主還元の計算基礎でもあります。生保では「当期純利益」より「修正利益」が実態に近いという前提を押さえておくと、決算の読み違いが減ります。

主要子会社別の修正利益は、第一生命3,779億円、プロテクティブ793億円、オセアニア(TAL等)387億円、第一フロンティア生命430億円、アセットマネジメント事業190億円などで、国内事業(4,163億円)がグループ修正利益の75%を占めます。海外比率が高い損保大手とは、この点が対照的です。

生保の利益構造:順ざや・EV・新契約価値

生保の稼ぐ力は、大きく「保険関係損益(死差・費差)」「順ざや(利差)」「キャピタル損益」に分解できます。2026年3月期はこの3つ目が大きく効きました。

  • 順ざや:第一生命の順ざやは2026年3月期で1,693億円。国内金利上昇局面を捉えて円確定利付資産を約1.3兆円入れ替え、年換算で約300億円の改善効果を生んでいます。2031年3月期には2026年3月期比で1,000億円以上の順ざや増を見込むとしています。
  • キャピタル損益:第一生命の国内株式売却額は2026年3月期で約8,000億円。国内株式残高は2024年3月末3.99兆円→2026年3月末3.38兆円と減少しており、2027年3月末2.8兆円以下、2031年3月末1.5兆円以下を目標としています。
  • 経済価値(EV):グループEVは2026年3月末で約9.7兆円(前期末比+18%)、うち第一生命が6.5兆円。グループ新契約価値は1,738億円(+1%)で、通期予想に対する進捗は約91%と未達でした。

EV(エンベディッド・バリュー)は、保有契約から将来生じる利益の現在価値と純資産を足した指標で、単年度の会計利益より生保の実力を測りやすいとされます。ただし金利・株価の前提で大きく動くため、水準そのものより増減の要因分解を見る方が実務的です。2026年3月期の増加も国内株価上昇の寄与が中心でした。

なお新契約年換算保険料はグループ全体で5,769億円(前期比+5.6%)、第一生命単体は+20.5%と大幅増で、保有契約年換算保険料は2016年度以来9年ぶりに反転しました。国内生保の縮小トレンドに変化の兆しが出ている点は、押さえておきたい材料です。

株主還元:配当性向50%以上への引き上げと72円配当

2026年5月15日の取締役会で、同社は配当方針の変更を決議しました(同日適時開示)。

項目内容(基準日・公表日)
配当方針2027年3月期より配当性向毎期50%以上(グループ修正利益の直近3年平均をベース)。従前は45%以上
2026年3月期の年間配当54.50円(中間24.00円+期末30.50円、期末は2026年6月22日の定時株主総会決議事項)
2027年3月期の配当予想72.00円(中間36.00円+期末36.00円、前期比+32%)
配当総額2026年3月期1,981億円 → 2027年3月期予想2,606億円
減配方針1株当たり年間配当の減配は原則行わない(IR「株主還元」ページ、2026年8月時点)
自己株式取得2025年3月期1,000億円。2026年3月期は実施なし。今後はHDキャッシュ・ESR・株価等を踏まえ機動的に判断

1株当たり配当金は株式分割(2025年4月1日付で1株→4株)調整後で2022年3月期20.75円→2027年3月期予想72円と、2021年度から2026年度でCAGR+28%です。ただし、配当の計算基礎は「直近3年平均のグループ修正利益」である点に注意が必要です。単年度の利益急増がそのまま配当に反映されるわけではなく、逆に単年度の悪化がすぐ減配につながるわけでもない、平準化された仕組みです。

自己株式取得は2026年3月期にゼロでした。会社は中期的に「市場リスク削減で資本効率を高めつつ、自己株式取得を徐々に縮小して配当性向を引き上げ、成長投資へシフトする」方針を示しており、還元の重心が買い戻しから配当へ移りつつあると読めます。保険株の還元を評価する枠組みは保険株の配当を見るときの損害率・運用益・資本政策で整理しています。

利回りの目安として、有価証券報告書によると第124期(2025年4月〜2026年3月)の株価は最高1,617.00円・最低815.40円でした。この範囲に2027年3月期の予想配当72円を当てはめると単純計算の配当利回りは約4.5%〜8.8%に相当しますが、レンジが広く実感と乖離しやすいため、投資判断時は必ず直近の株価で再計算してください(同期のPERは11.9倍)。

2027年3月期第1四半期の進捗とESRの低下

2026年8月7日公表の第1四半期決算短信・決算概要資料(2026年4月1日〜6月30日)では、経常収益2兆8,930億円(前年同期比+25.3%)、経常利益2,510億円(同+195.6%)、四半期純利益1,600億円(同+367.8%)と大幅増益で着地しました。

グループ修正利益は1,581億円(前年同期比+113%)で、通期見通し5,600億円に対する進捗は約28%です。セグメント別の進捗率は国内事業32%、海外事業21%、アセットマネジメント事業19%で、国内が牽引する構図が続いています。

一方で、資本と含み損益には注意すべき変化が出ています。

  • グループESR:2026年3月末の約220%から2026年6月末は約206%へ約13ポイント低下。国内株高で適格資本は増えたものの、金利上昇に伴う大量解約リスクの増加と、M&Aによるのれん増加が上回りました。2026年4月1日には英国M&G社の議決権約15%の取得を完了しており、この影響も含まれます。
  • 含み損益(第一生命単体、2026年6月末):有価証券全体は△5,051億円。内訳は国内株式+2兆7,683億円、外国証券+6,091億円に対し、国内債券が△4兆406億円です。10年金利は2025年3月末の約1.5%から2026年6月末は約2.7%へ上昇しました。
  • 含み損益がゼロになる水準(2026年6月末時点):日経平均17,100円、TOPIX 970ポイント、国内債券0.5%、外国証券137円/ドル。株価がここまで下げると株式の含み益が消える計算です。

なお新契約価値は約200億円で通期進捗約20%にとどまり、会社は「新契約マージンがコスト要因で低下し想定を下回った」と説明しています。利益は好調でも、将来利益の源泉である新契約価値は伸び悩んでいる点は割り引いて見る必要があります。

投資判断のポイント:強気材料とリスク

強気材料

  • グループ修正利益は2026年3月期5,515億円で3期連続最高益、2027年3月期は5,600億円程度と4期連続更新を予想
  • 修正ROE12.7%(2026年3月期)で中期経営計画の目標12%を前倒し達成
  • 配当性向を毎期50%以上へ引き上げ、減配は原則行わないと明示。予想配当72円は前期比+32%
  • 国内金利上昇が順ざや拡大に直結する構造で、債券入替えの効果は2031年3月期に向けて積み上がる見通し
  • 保有契約年換算保険料が9年ぶりに反転し、国内の営業基盤に改善が見られる

リスク・確認すべき点

  • 2026年3月期・第1四半期とも増益の主因に国内株式の売却益という一時的なキャピタル損益が含まれる。売却余地は2031年3月末1.5兆円以下という縮減目標の下で年々細る
  • 国内債券に4兆円規模の含み損(2026年6月末、第一生命単体)。満期保有が前提とはいえ、金利上昇局面では大量解約リスクも同時に増える
  • グループESRは約220%(2026年3月末)→約206%(2026年6月末)と低下。M&G出資やObsidian買収などM&Aが続けばのれん増加で追加の押し下げ要因になり得る
  • 新契約価値の進捗が約20%(2027年3月期第1四半期)と鈍く、将来利益の積み上がりは足元の利益ほど強くない
  • 会計上の当期純利益とグループ修正利益が乖離しやすく、報道の見出しだけでは業績の方向を誤読しやすい
  • 海外はTALの保険金支払い増からの回復遅れ、プロテクティブのLDTI導入影響(2027年3月期△65億円想定)など、個社要因の変動が残る

これらは判断材料の整理であり、株価の上昇や配当の維持を保証するものではありません。

まとめ

第一生命ホールディングス(現・第一ライフグループ)は2026年3月期にグループ修正利益5,515億円・修正ROE12.7%と過去最高を更新し、2027年3月期からは配当性向を毎期50%以上へ引き上げて1株72円の配当を予想しています。国内金利上昇による順ざや拡大は構造的な追い風ですが、直近の増益幅を押し上げたのは国内株式の売却益であり、その原資は縮減方針の下で細っていく性質のものです。実務としては、①グループ修正利益と当期純利益の差異要因、②順ざやとキャピタル損益の内訳、③グループEVと新契約価値の進捗、④グループESRと国内債券の含み損、この4点を四半期ごとの決算短信・決算概要資料・適時開示で追うことが、この銘柄を見るうえでの作業になります。本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。

出典

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本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、正確性・完全性を保証するものではありません。投資に関する最終的な決定は、ご自身の判断と責任において行ってください。

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