この記事の結論
  • 結論:配当が借入で賄われた年があるというだけで「危ない会社」とは決められません。不足が買収などの一時的な支出によるものか、毎年続いているのかを見分けることが大切です。
  • 理由:お金に色はありません。フリーキャッシュフロー(FCF)が配当支払額に届かない年は、手元資金を取り崩すか、借入・社債で埋めるしかありません。この状態が何年も続けば、いずれ有利子負債の増加や減配として表れます。
  • 確認点:キャッシュ・フロー計算書で「FCF − 配当支払額」を3〜5年分計算し、財務CFの借入・社債の純増減、自己資本比率、会社が示す配当方針と照らし合わせます。

「借金で配当」はどこに表れるのか

配当は会計上の利益から決まりますが、実際に支払うのは現金です。そこで、損益計算書よりもキャッシュ・フロー計算書を見るほうが実態をつかみやすくなります。確認する項目は次の3つです。

  • 営業活動によるキャッシュ・フロー(営業CF):本業で稼いだ現金
  • 投資活動によるキャッシュ・フロー(投資CF):設備投資や買収に使った現金
  • 財務活動によるキャッシュ・フロー(財務CF):借入・社債・配当・自社株買いなどの資金の出入り

営業CFから投資CFの支出を差し引いたものがフリーキャッシュフロー(FCF)です。FCFが配当支払額を下回った年は、財務CFの内訳に「長期借入による収入」「社債の発行による収入」といった資金調達の項目が大きく並んでいることが多くなります。これが「配当のために借金をしている」ように見える状態です。

FCFと配当の比べ方の基本はフリーキャッシュフローで配当余力を確認する方法で詳しく解説しています。本記事ではその先の「足りなかった分をどう埋めたか」に焦点を当てます。

決算短信で見る実例:JT(2914)の2年間

高配当株としてよく名前の挙がる日本たばこ産業(JT)の決算短信をもとに、実際の数字で確認してみます(単位:億円、百万円単位の開示値を四捨五入)。

項目2024年12月期2025年12月期
営業CF6,3005,141
投資CF△4,398△2,650
FCF(営業CF+投資CF)1,9022,491
支払配当金△3,496△3,569
FCF − 配当△1,594△1,078
借入・CP・社債の純増減+2,836△895
現金及び現金同等物の期末残高10,8468,311
配当性向(連結)192.2%81.4%
親会社所有者帰属持分比率45.0%48.5%

※出典:日本たばこ産業「2024年12月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」(2025年2月13日、3月10日訂正)、「2025年12月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」(2026年2月12日)。借入・CP・社債の純増減は、財務CFのうち短期借入金及びCPの増減額、長期借入による収入・返済、社債の発行・償還を筆者が合算したもので、リース負債は含めていません。

表面の数字だけを見ると、2年続けてFCFで配当を賄えていません。2024年12月期は有利子負債を差し引きで約2,800億円増やしています。ただし、中身を分けて見ると印象は変わります。

2024年12月期:不足の主因は買収

2024年12月期の投資CFには「企業結合による支出」2,657億円が含まれています。決算短信で言及されている米Vector Group Ltd.の買収に伴うものです。この支出を除いたFCFは約4,559億円で、配当支払額の約1.3倍になります。配当性向が192.2%まで上がったのも、カナダ訴訟の和解に関する損失引当金3,756億円を営業費用に計上して当期利益が落ち込んだためです。会社はこの年の配当を194円のまま据え置いています。

2025年12月期:定期預金と和解金の頭金

2025年12月期は、投資CFに定期預金の預入・払出の純額で約1,143億円の支出が含まれます。これは現金同等物から定期預金へお金を移しただけで、事業への投資ではありません。この分を足し戻すとFCFは約3,634億円となり、配当支払額とほぼ同じ水準です。また営業CFには、カナダ訴訟の和解金の頭金支払いによる引当金の減少が響いたと決算短信に書かれています。財務CFでは社債を約5,775億円発行する一方で長期借入金を約6,666億円返済しており、差し引きでは有利子負債を減らしています。

このように、同じ「FCF < 配当」でも、要因が買収・訴訟・資金の置き場所の変更なのか、本業の稼ぐ力の不足なのかで評価は大きく変わります。

借入依存の還元を見分ける5つのチェック

実例を踏まえ、個人投資家が決算短信や有価証券報告書で確認できる手順を整理します。

  1. FCF − 配当を3〜5年分並べる:1年だけでは一時要因に振り回されます。累計でマイナスが続いていないかを確認します。
  2. 投資CFの内訳から一時的な支出を分ける:企業結合、定期預金の預入、大型設備投資など、毎年は発生しない項目を除いた「平常時FCF」でも比べます。
  3. 財務CFで調達の目的を読む:借入や社債の収入が既存債務の借り換えなのか純増なのかは、返済・償還の額と並べると分かります。
  4. 有利子負債の水準と利払いを確認する:負債が増えた場合は、利払い負担と返済能力を併せて見ます。指標の見方は有利子負債と利払い負担から高配当株の安全性を見るを参照してください。
  5. 配当方針とのずれを見る:「配当性向75%目安」のような利益基準の方針は、利益が一時的に落ちると現金の裏付けを超えやすくなります。方針の算定根拠(調整後利益なのか、どの損失を除いているのか)を注記で確認します。

金融庁の「記述情報の開示の好事例集」(2019年12月20日)では、三井物産が有価証券報告書で「株主還元後のフリー・キャッシュ・フロー」を示し、その使い道を追加株主還元・有利子負債の返済・追加投資に振り分ける考え方を開示した例が紹介されています。会社自身が還元後FCFをどう管理しているかを開示していれば、それが持続性を判断する有力な手がかりになります。

評価を分ける判断条件:強気材料とリスク

借入を伴う還元をどう見るかは、次の条件で分かれます。

前向きに評価しやすい条件

  • 不足の原因が買収や訴訟など特定でき、平常時FCFでは配当を賄えている
  • 翌期以降に有利子負債を減らしている(財務CFで返済が調達を上回る)
  • 自己資本比率が大きく下がっていない(JTは2024年12月期45.0%→2025年12月期48.5%)

注意したい条件

  • 一時要因を除いてもFCFが配当に届かない年が3年以上続く
  • 有利子負債が毎年増え、手元現金も減り続けている
  • 利益が落ちても配当を据え置き、その根拠となる利益の定義が年ごとに変わる
  • 金利上昇局面で借り換えのコストが上がり、利払いが営業CFを圧迫し始めている

JTの場合、2026年12月期の1株当たり配当予想は242円(配当性向75.4%、2026年2月12日公表時点)です。この予想を支えられるかは、買収した事業の利益貢献や、和解金の残りの支払いが営業CFにどう影響するかに左右されます。高配当であることだけを根拠にせず、次の決算短信でも同じ表を更新して確認することが重要です。

まとめ

「配当のために借金をしている」かどうかは、FCFと配当支払額を比べ、足りない分を財務CFでどう埋めたかをたどると見えてきます。ただし、1年分の数字だけで判断するのは危険です。JTの2024・2025年12月期のように、買収や訴訟、定期預金への資金移動といった一時要因を除くと評価が変わる場合もあります。

  • FCF − 配当を3〜5年分並べ、一時要因を除いた平常時の数字でも確認する
  • 借入・社債の純増減と手元現金の推移で、不足の埋め方を確認する
  • 自己資本比率、利払い負担、配当方針の算定根拠と照らし合わせる

本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。

出典

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