この記事の結論
  • 結論:ホンダは2026年3月期にEV関連損失で営業赤字・最終赤字に転落したが、年間配当70円を維持し、2027年3月期も70円を予想している(2026年5月14日発表の決算短信ベース)
  • 理由:配当を利益連動ではなくDOE(株主資本配当率)3.0%目安で決める方針のため、単年度の赤字が直ちに減配につながりにくい設計になっている
  • 確認点:EV関連の追加損失の有無、四輪事業の採算回復、自己資本の毀損が続かないか(DOE基準では自己資本の減少が配当原資の縮小に直結する)

本田技研工業(証券コード7267、以下ホンダ)は、二輪・四輪・金融サービス・パワープロダクツの4セグメントを持つ日本を代表するメーカーです。本記事では、2026年5月14日発表の2026年3月期決算短信と、2026年6月18日提出の有価証券報告書(第102期)という一次資料に基づき、事業別の収益構造と株主還元の実態を確認します。企業分析の基本的な進め方は個別企業分析のやり方:決算・財務・事業を読む基本手順で解説しているので、初めての方はあわせてご覧ください。

2026年3月期決算の全体像:増収だが大幅な営業赤字

決算短信(2026年5月14日発表)によると、2026年3月期の連結業績は次のとおりです。

項目2025年3月期2026年3月期
売上収益21兆6,888億円21兆7,966億円(+0.5%)
営業利益1兆2,135億円▲4,143億円(赤字転落)
親会社所有者帰属の当期利益8,358億円▲4,239億円(赤字転落)
1株当たり当期利益178.93円▲106.06円

売上収益は微増ながら、営業損益は前年度から1兆6,278億円悪化しました。主因はEV関連損失です。ホンダは2026年3月12日に四輪電動化戦略の見直しを公表し、北米で生産予定だった一部EVモデルの上市・開発中止などを決定。これに伴い、2026年3月期に減損損失5,214億円、除却損失3,314億円、契約関連の引当金繰入6,674億円などを計上し、持分法による投資損失を含めると合計約1兆5,778億円の損失・費用を認識しました。決算短信の営業利益増減分析では、当期のEV関連損失を1兆4,536億円と説明しています。

一方で、営業キャッシュ・フローは1兆1,352億円のプラス(前年度比8,431億円増)、期末の現金及び現金同等物は5兆1,184億円と、手元流動性は厚みを増しています。会計上の損失の多くが減損・引当金という非資金項目である点は、数字を読むうえで押さえておきたいポイントです。

セグメント分析:稼ぎ頭は四輪ではなく二輪と金融

ホンダを「クルマの会社」とだけ捉えると実態を見誤ります。決算短信のセグメント情報(2026年3月期)を見てみましょう。

セグメント売上収益(外部顧客)営業利益
二輪事業4兆188億円7,319億円
四輪事業13兆8,634億円▲1兆4,111億円
金融サービス事業3兆5,295億円2,755億円
パワープロダクツ及びその他3,849億円▲107億円

売上の6割超を占める四輪事業がEV関連損失を一手に引き受けて大幅赤字となる一方、二輪事業は前年度の6,634億円から7,319億円へ増益し、営業利益率は約18%に達します。金融サービスも安定的に2,000億円台後半の利益を稼いでおり、実質的な利益の柱は二輪と金融です。このように「売上構成比」と「利益構成比」のズレから企業の実像を読む方法は、セグメント情報から企業の稼ぎ頭とリスクを読むで詳しく解説しています。

なお、会社側は2027年3月期に売上収益23兆1,500億円、営業利益5,000億円への回復を予想しています(前提為替は1ドル=145円、2026年5月14日時点)。この予想にはEV関連損失5,000億円の追加計上が織り込まれている点に注意が必要です。

株主還元:DOE3.0%目安で赤字でも年間70円を維持

配当の実績と予想は次のとおりです(決算短信および2026年8月29日閲覧のHonda投資家情報サイトより)。

年度中間期末年間
2025年3月期34円34円68円
2026年3月期35円35円70円(最終赤字でも増配)
2027年3月期(会社予想)35円35円70円

最終赤字の期に増配できた背景には、配当方針の転換があります。ホンダは配当をDOE(調整後親会社所有者帰属持分配当率)3.0%を目安に安定的・継続的に行う方針を掲げています(2026年8月29日時点のIRサイト記載)。DOEは自己資本に対する配当額の比率なので、単年度の利益がぶれても配当が大きく変動しにくいのが特徴です。実際、2026年3月期の親会社所有者帰属持分配当率(連結)は2.4%で、配当総額2,729億円は営業キャッシュ・フロー1兆1,352億円の範囲に収まっています。

自己株式の取得も積極的で、2026年3月期のキャッシュ・フロー計算書では自己株式の取得及び売却による収支が▲6,702億円。発行済株式総数(自己株式含む)は前期末の52.80億株から45.33億株へ減少しており、消却を含む大規模な株主還元が進んでいます。

株価は2026年8月28日終値で1,702.5円、予想年間配当70円に対する予想配当利回りは約4.11%です(Yahoo!ファイナンスより)。ただし2027年3月期の予想配当性向は104.8%と、予想EPS66.79円を配当が上回る計画である点は認識しておくべきです。

強気材料・リスク・判断条件を整理する

強気材料

  • 二輪事業が営業利益7,319億円・利益率約18%と過去最高水準で、四輪の不振を下支えしている
  • DOE3.0%目安の配当方針により、利益変動局面でも配当の予見性が高い
  • 営業キャッシュ・フロー1兆1,352億円、手元資金5兆円超と財務の耐久力がある

リスク

  • EV戦略見直しに伴う取引先への追加支出の可能性が「重要な後発事象」として開示されており、金額は現時点で見積不能とされている(2026年5月14日時点)
  • 2027年3月期もEV関連損失5,000億円の計上が見込まれ、関税や為替(前提145円/ドル)の変動が業績予想を左右する
  • 赤字が続いて自己資本が毀損すれば、DOE基準の配当額そのものが目減りする(2026年3月期の資本合計は前期末比4,797億円減)

判断条件の例

「四輪事業がEV関連損失を除いて黒字を保てているか」「EV関連の追加損失が会社想定の範囲に収まるか」「自己資本の減少に歯止めがかかるか」を四半期決算ごとに確認し、条件が崩れたら見直す、といった形で自分なりの基準をあらかじめ決めておくと、感情に流されない判断がしやすくなります。

まとめ

ホンダの2026年3月期は、EV戦略見直しに伴う約1.5兆円の損失計上で営業赤字・最終赤字となりましたが、二輪・金融という収益の柱は健在で、キャッシュ創出力も維持されています。配当はDOE3.0%目安への方針転換により年間70円を維持し、予想配当利回りは約4.11%(2026年8月28日終値ベース)。一方で、追加損失の見積不能リスクや予想配当性向104.8%という数字が示すとおり、業績回復が伴わなければ還元の持続性には限界があります。決算短信と有価証券報告書を定点観測し、事業別の採算と自己資本の推移を自分の目で確かめることが、この銘柄と付き合ううえでの前提になります。

本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。

出典

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本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、正確性・完全性を保証するものではありません。投資に関する最終的な決定は、ご自身の判断と責任において行ってください。

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