この記事の結論
  • 結論:特定口座(源泉徴収あり)に配当を受け入れていれば、同一口座内の配当と譲渡損失は自動で通算されるため、多くの人は確定申告なしで完結します。
  • 理由:源泉徴収選択口座では、譲渡損失がある場合に配当等の総額から損失を差し引いた金額に対して源泉徴収が行われる仕組みだからです(国税庁タックスアンサーNo.1476、令和7年4月1日現在法令等)。
  • 確認点:複数口座をまたぐ通算、損失の3年繰越、他の口座での損失活用を行う場合は確定申告が必要です。ただし令和6年度分以降の個人住民税は所得税の課税方式と一致するため、社会保険料や扶養判定への影響も含めて損得を確認してください。

課税口座(特定口座・一般口座)で高配当株を持つと、配当金は自動的に税金が引かれた後の金額で入金されます。「何もしなくていいのか」「損が出た年は申告した方が得なのか」で迷いやすいところなので、国税庁の資料をもとに整理します。

特定口座の配当金にかかる税金の基本

上場株式等の配当金(大口株主等が受けるものを除く)は、支払時に 15.315%(所得税および復興特別所得税)と地方税5% が源泉徴収されます。合計 20.315% です(国税庁タックスアンサーNo.1330・No.1331、令和7年4月1日現在法令等)。

なお、非上場株式等の配当や大口株主等が受ける配当は20.42%(地方税なし)の源泉徴収となり、申告分離課税を選ぶことはできません。大口株主等とは発行済株式の総数等の3%以上を保有する個人を指し、令和5年10月1日以後は保有割合の判定範囲が広げられています。個人投資家の通常の売買では該当しないケースがほとんどです。

特定口座には2種類あります。

口座の種類譲渡益の源泉徴収主な使い方
源泉徴収選択口座(源泉徴収あり)譲渡の都度、譲渡益に15.315%を源泉徴収原則として申告不要で完結する
簡易申告口座(源泉徴収なし)なし特定口座年間取引報告書を使って自分で申告する

(出典:国税庁タックスアンサーNo.1476、令和7年4月1日現在法令等)

ここで見落としやすいのが、配当金の受取方法 です。配当を証券口座で受け取る「株式数比例配分方式」を選んでいないと、そもそも配当が特定口座に受け入れられず、後述する口座内の自動通算が働きません。株式数比例配分方式は証券会社等の口座残高に応じて配当を受け取る方式で、1社に申し込むと他社で保有する銘柄も含めすべてに適用されます(証券保管振替機構「振替株式等の配当金の受取方法のご案内」)。銘柄選びの前提を含めて確認したい方は、高配当株投資の始め方:利回りだけで選ばない基本手順も合わせて確認してください。

3つの課税方式と選び方

上場株式等の配当等については、次の3つから課税方式を選べます。

課税方式税率・控除譲渡損失との損益通算配当控除
確定申告不要制度源泉徴収20.315%で完結同一の源泉徴収選択口座内のみなし
申告分離課税20.315%できるなし
総合課税累進税率(他の所得と合算)できないあり

(出典:国税庁タックスアンサーNo.1330・No.1331・No.1250、令和7年4月1日現在法令等)

ポイントは3つあります。

第一に、申告分離課税を選ぶと配当控除は使えません。逆に総合課税を選ぶと配当控除(課税総所得金額1,000万円以下の部分で、剰余金の配当は10%、証券投資信託の収益分配金は5%)が使えますが、譲渡損失との損益通算はできません。どちらか一方です。

第二に、確定申告する上場株式等の配当所得については、その全額について同じ方式を選ぶ必要があります。銘柄ごとに「これは総合課税、あれは申告分離課税」と分けることはできません(配当ごとに申告するかしないかを選ぶことは可能です)。

第三に、いったん選んだ課税方式は、その後の修正申告や更正の請求で変更できません。申告前に試算しておくことが重要です。

損益通算はどこまで自動で、どこから申告が必要か

源泉徴収選択口座に配当を受け入れている場合、その口座内で譲渡損失が発生すると、口座内の利子等・配当等の総額から譲渡損失を控除した金額に対して源泉徴収税額が計算し直されます。すでに源泉徴収された分は還付される形になり、確定申告をしなくても通算が完了します

一方、次のようなケースでは確定申告が必要です。

  • A証券の口座で出た譲渡損失を、B証券の口座の譲渡益や配当と通算したい場合
  • 一般口座や簡易申告口座の損益を含めて通算したい場合
  • その年の損失を翌年以降に繰り越したい場合
  • 配当を特定口座に受け入れていない(株式数比例配分方式を選んでいない)場合

譲渡損失と損益通算できる配当所得は、申告分離課税を選択したものに限られます(国税庁タックスアンサーNo.1474、令和7年4月1日現在法令等)。総合課税を選んだ配当とは通算できない点に注意してください。

繰越控除は3年、ただし「連続申告」が条件

損益通算をしても控除しきれなかった上場株式等の譲渡損失は、翌年以後3年間 にわたって繰り越し、各年の上場株式等の譲渡所得等および申告分離課税を選択した配当所得等から控除できます。

適用には手続き要件があります。損失が生じた年分について「所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表」と「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」を添付した確定申告書を提出し、その後の年も連続して 付表を添付した確定申告書を提出し続ける必要があります。ここで重要なのが、上場株式等の譲渡がなかった年も申告が必要 という点です。「今年は売っていないから申告不要」と1年空けると、繰越の権利が切れてしまいます(国税庁タックスアンサーNo.1474、令和7年4月1日現在法令等)。

申告する前に確認したい4つの注意点

個人住民税の課税方式は所得税と一致する

かつては所得税で申告分離課税、住民税で申告不要と使い分ける手法がありましたが、令和6年度分以後の個人住民税では、所得税の確定申告で選択した課税方式が住民税にもそのまま適用されます(国税庁「令和6年分 所得税及び復興特別所得税の確定申告の手引き」市区町村からのお知らせ)。使い分けはできません。

合計所得金額が増える影響

確定申告して配当所得を申告に含めると、その分が合計所得金額に算入されます。国民健康保険料や後期高齢者医療保険料の算定、配偶者控除・扶養控除の判定などに影響する可能性があります。還付される所得税額より社会保険料の増加が上回る ケースもあるため、申告するかどうかは総額で比較してください。

NISA口座の損失は通算できない

NISA口座で生じた損失は、課税口座の譲渡益や配当と損益通算できず、繰越控除の対象にもなりません。この非対称性は、どの資産をどの口座に置くかを決める判断材料になります。詳しくはNISAで高配当株を持つ前に知りたい税制と注意点を参照してください。

申告が有利になりやすい人・不利になりやすい人

判断の目安を整理すると次のようになります。

  • 申告分離課税で申告する価値が高い:複数口座にまたがって損益がある人、その年に大きな譲渡損失が出た人、過去の繰越損失を使いたい人
  • 総合課税が候補になる:課税所得が低く、配当控除を含めた実効税率が20.315%を下回る人
  • 申告不要のままが無難:源泉徴収選択口座1つで完結していて、損失も繰越もない人、扶養や社会保険料の判定が微妙な人

いずれも個別事情によって結論が変わります。金額が大きい場合や判断に迷う場合は、確定申告書等作成コーナーで試算するか、税務署・税理士に確認するのが確実です。

まとめ

特定口座(源泉徴収あり)に配当を受け入れていれば、口座内の配当と譲渡損失は自動で通算され、多くの人は申告不要で完結します。確定申告が意味を持つのは、複数口座をまたぐ通算、譲渡損失の3年繰越、総合課税による配当控除の3つの場面です。

ただし令和6年度分以後は個人住民税の課税方式も所得税と一致するため、所得税の還付だけを見て判断すると、社会保険料や扶養判定で不利になる可能性があります。課税方式は修正申告や更正の請求で変更できないため、申告前に「還付額」と「合計所得金額が増える影響」の両方を試算する ことが実務上の要点です。制度や税率は改正されるため、実際の申告時には国税庁の最新資料で基準日を確認してください。

本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。

出典

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