この記事の結論
  • 結論:原稿料・印税・作曲料の所得が大きく増えた年は、所得税の「変動所得の平均課税」で税額を抑えられる場合があります。
  • 理由:増えた分の所得を5分の1にして税率を決めるため、累進課税で高い税率がかかる部分を減らせます。
  • 確認点:①所得の種類が変動所得か、②前年・前々年と比べた2分の1判定、③総所得金額の20%以上か、の3点を確認し、計算書を申告書に添付します。

書籍の印税が一度に入った年や、連載が重なって原稿料が膨らんだ年は、累進課税によって税率が一気に上がります。翌年に収入が戻っても、払った税金は戻ってきません。この「収入の波」による税負担の偏りをならすために、所得税法には変動所得の平均課税という制度があります。

この記事では、令和7年分の確定申告資料と所得税法の条文(2026年9月29日時点でe-Gov法令検索で確認)をもとに、平均課税を使えるかどうかの判定方法と、申告の手順を整理します。

変動所得とは:対象になる所得の範囲

所得税法第2条第1項第23号では、変動所得を「漁獲から生ずる所得、著作権の使用料に係る所得その他の所得で年々の変動の著しいもののうち政令で定めるもの」と定めています。具体的な範囲は所得税法施行令第7条の2に列挙されています。

区分対象になる所得
漁業関係漁獲・のりの採取による所得
養殖関係はまち、まだい、ひらめ、かき、うなぎ、ほたて貝、真珠(真珠貝を含む)の養殖による所得
著作関係原稿・作曲の報酬、著作権の使用料(印税など) による所得

フリーランスに関係するのは主に著作関係です。ポイントは次の3つです。

  • 対象は事業所得または雑所得のうち上記に当たる部分です。副業で原稿料を雑所得として申告している場合も含まれます。
  • 列挙されていない所得は、変動が大きくても対象外です。たとえばWeb制作やコンサルティングの報酬は、年ごとに増減しても変動所得には当たりません。
  • 権利金・契約金など一時的に受け取る所得は「臨時所得」として別に扱われ、変動所得と合算して判定します(所得税法第2条第1項第24号)。

必要経費は按分して区分する

事業所得のうち一部だけが原稿料という場合は、必要経費を「変動所得の収入に対応する部分」と「それ以外」に分けて計算します。個別に分けられない経費は、収入金額の比や従事割合などで按分します。青色申告特別控除額も、変動所得とそれ以外の所得の金額の比で按分します(国税庁「変動所得・臨時所得の説明書」令和7年分)。

平均課税が使える条件:2段階で判定する

所得税法第90条第1項の要件は、次の2段階で整理すると分かりやすくなります。

ステップ1:前年・前々年との比較(2分の1判定)

本年の変動所得の金額を、前年と前々年の変動所得の合計額の2分の1と比べます。

  • 前年・前々年に変動所得がなかった場合、または本年の変動所得が「前年+前々年の合計の2分の1」を超える場合は、判定に使う金額を「変動所得+臨時所得」とします。
  • 本年の変動所得が「前年+前々年の合計の2分の1」以下の場合は、判定に使う金額を「臨時所得のみ」とします。

ステップ2:20%判定

ステップ1で決めた金額が、本年の総所得金額の20%以上であれば適用できます。ここでいう総所得金額には、分離課税の所得、山林所得、退職所得は含みません(計算書の記載による)。

判定の具体例

  • 例1:初めて印税収入があった年。変動所得が300万円、総所得金額が800万円であれば、300万÷800万=37.5%で20%以上となり、適用できます。
  • 例2:毎年原稿料が安定している場合。本年の変動所得が300万円、前々年+前年の合計が700万円(2分の1は350万円)であれば、本年の300万円は350万円以下です。この場合は臨時所得だけで判定するため、臨時所得がなければ適用できません。

つまり、この制度は収入が「前の2年の平均より増えた年」を対象としており、毎年同じ水準で原稿料を得ている人には使えない仕組みになっています。

税額の計算方法:5分の1にして税率を決める

平均課税の計算は、所得税法第90条第1項・第3項に沿って次の順序で行います。

  1. 平均課税対象金額を求める:変動所得の金額(前年・前々年に変動所得がある場合は、「前年+前々年の合計の2分の1」を超える部分だけ)+臨時所得の金額
  2. 調整所得金額を求める:課税される所得金額 −(平均課税対象金額 × 5分の4)(1,000円未満切捨て)
  3. 調整所得金額に通常の税率を適用して税額を出す
  4. 平均税率を求める:3の税額 ÷ 調整所得金額(小数点以下切捨ての%表示)
  5. 特別所得金額(課税される所得金額 − 調整所得金額)× 平均税率
  6. 3+5が、課税される所得金額に対する税額になります

言い換えると、増えた部分を5分の1だけ通常の課税に残し、残りの5分の4には、その5分の1を含めた所得に対する平均税率を適用する仕組みです。

国税庁の記載例で効果を確認する

国税庁「変動所得・臨時所得の説明書」(令和7年分)の設例をもとに計算します。

項目金額
各種所得金額の合計6,000,000円
うち変動所得(原稿料)820,000円
うち臨時所得(権利金)1,500,000円
課税される所得金額4,300,000円
令和5年分・6年分の変動所得200,000円・280,000円
  • 変動所得の平均額を超える部分:820,000 −(200,000+280,000)÷2 = 580,000円
  • 平均課税対象金額:580,000+1,500,000 = 2,080,000円
  • 調整所得金額:4,300,000 − 2,080,000×4/5 = 2,636,000円
  • 調整所得金額に対する税額:2,636,000×10% − 97,500 = 166,100円
  • 平均税率:166,100÷2,636,000 → 6%
  • 特別所得金額に対する税額:1,664,000×6% = 99,840円
  • 合計:265,940円

通常の計算では、課税される所得金額430万円に対する税額は 4,300,000×20% − 427,500 = 432,500円です(国税庁タックスアンサーNo.2260の速算表、令和8年4月1日現在法令等)。この設例では、平均課税を使うことで所得税額(復興特別所得税を除く)が約16.7万円少なくなります。

累進課税の仕組みそのものは「フリーランスの所得税を累進課税から理解する」で解説しています。

効果が小さいケースもある

平均税率は調整所得金額をもとに決まるため、所得全体がもともと低い税率の区分に収まっている場合は、軽減効果がほとんど出ないこともあります。適用するかどうかは、確定申告書等作成コーナーで両方の税額を計算して比べるのが確実です。

申告の手順と注意点

必要な書類

所得税法第90条第4項では、確定申告書・修正申告書・更正の請求書に適用を受ける旨を記載し、計算の明細書を添付した場合に限り適用すると定めています。実務上は次の流れになります。

  1. 申告書第一表の「税金の計算」欄(課税される所得金額まで)を作成する
  2. 「変動所得・臨時所得の平均課税の計算書」に、変動所得の種目(印税、原稿料、作曲料など)、収入金額、必要経費、前々年分・前年分の変動所得の金額を記入する
  3. 計算書で求めた税額を申告書第一表に転記し、「その他」欄の「平均課税対象金額」「変動・臨時所得金額・区分」を記入する
  4. 計算書を申告書と一緒に提出する

e-Taxの確定申告書等作成コーナーには、変動所得の入力画面と、前々年分・前年分の変動所得の入力画面が用意されています。

注意点

  • 前年・前々年の変動所得は必ず記入する:過去に平均課税を使ったかどうかに関係なく、各年分の変動所得の金額を記入します。過去の申告書で原稿料の所得金額を確認できるよう、控えを保管しておきましょう。
  • 申告漏れに気づいた場合:更正の請求でも適用を受けられます(第90条第4項)。期限は、法定申告期限から5年以内です。
  • 対象は所得税:平均課税は所得税法上の制度です。住民税や国民健康保険料の計算にどう影響するかは、お住まいの自治体の案内を確認してください。翌年の負担をまとめて見積もる方法は「年末に納税額を先に見積もる:着地見込みから所得税・住民税・国保を逆算する」を参考にしてください。
  • 消費税は別の基準で判定される:原稿料が大きく増えた年は、その年が「基準期間」となる2年後に、課税売上高1,000万円を超えて消費税の納税義務が生じる可能性があります(消費税法第9条第1項)。平均課税は消費税には影響しません。
  • 付加税の扱い:令和19年分までは、所得税額の2.1%の復興特別所得税を併せて申告・納付します。令和9年分以降は防衛特別所得税の制度も適用される予定です(国税庁タックスアンサーNo.2260、令和8年4月1日現在法令等)。

まとめ

変動所得の平均課税は、原稿料・印税・作曲料などの所得が大きく増えた年に、累進課税による負担をならすための制度です。使えるかどうかは次の3点で判定します。

  • 所得が施行令第7条の2に列挙された変動所得(または臨時所得)に当たるか
  • 本年の変動所得が「前年+前々年の合計の2分の1」を超えているか
  • 判定に使う金額が総所得金額の20%以上か

要件を満たす場合は計算書を添付して申告します。適用を忘れた場合も、更正の請求で後から適用を受けられます。一方で、所得全体の水準によっては効果が小さいこともあるため、作成コーナーで税額を比べてから判断すると確実です。制度や税率は改正されることがあるため、申告前に必ず国税庁の最新資料を確認してください。

本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。

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