配当総額とキャッシュフローの配当金支払額が違う理由
- 結論:決算短信の「配当金総額」は当期に属する配当の合計です。キャッシュ・フロー計算書の「配当金の支払額」は当期中に実際に支払った現金です。数えている期間が違うため、2つの数字は一致しないのが普通です。
- 理由:3月決算の会社では、期末配当の基準日が3月31日で、支払いは翌期の6月です。そのため当期のCFには「前期の期末配当」と「当期の中間配当」が入ります。
- 確認点:有価証券報告書の配当注記で基準日と効力発生日を確かめ、持分変動計算書とCF計算書で、親会社株主への配当と非支配株主への配当を分けて照合します。
決算短信の1ページ目には、配当の状況として「配当金総額」が載っています。ところが、同じ短信の後ろにある連結キャッシュ・フロー計算書の「配当金の支払額」と比べると、金額が合いません。誤記ではありません。2つの数字は集計の基準が違います。
この記事では、KDDIと日立製作所の2026年3月期の開示を使って、2つの数字がどうつながっているのかを順に照合します。
2つの数字は「数えている期間」が違う
まず、それぞれの数字が何を集めたものかを整理します。
| 項目 | 載っている場所 | 何を数えているか |
|---|---|---|
| 配当金総額 | 決算短信「配当の状況」 | 基準日が当期に属する配当(中間+期末)の合計 |
| 配当金支払額(注記) | 有価証券報告書の配当注記 | 当期中に効力が発生した配当 |
| 剰余金の配当 | 連結持分変動計算書 | 当期に資本から減った配当の額 |
| 配当金の支払額 | 連結キャッシュ・フロー計算書(財務活動) | 当期中に実際に出ていった現金 |
3月決算の会社が年2回配当する場合、当期に属する配当は「9月30日基準の中間配当」と「3月31日基準の期末配当」です。期末配当は株主総会などの決議を経て、翌期の6月ごろに支払われます。
そのため、当期のCF計算書に入るのは次の2回分です。
- 前期の期末配当(前年3月31日基準、当期の6月に支払い)
- 当期の中間配当(9月30日基準、当期の11〜12月に支払い)
中間配当と期末配当で決め方が違う点は、中間配当と期末配当はどう違うか:年2回の内訳から分かることで詳しく扱っています。
KDDIの2026年3月期で照合する
KDDIの2026年3月期(2025年4月1日〜2026年3月31日)の開示から、数字を並べます。単位は百万円です。
当期に属する配当(配当金総額)
決算短信の配当の状況では、2026年3月期の年間配当金は1株80円(中間40円・期末40円)、配当金総額は304,566百万円です。有価証券報告書の配当注記によると、期末配当40円(配当金の総額152,343百万円)は基準日が2026年3月31日、効力発生日が2026年6月18日です。つまりこの期末配当は、2027年3月期の期間に支払われます。
当期中に支払った配当(注記・持分変動・CF)
有価証券報告書の「配当金支払額」の注記には、当期中に効力が発生した次の2件が載っています。
| 決議 | 基準日 | 効力発生日 | 1株当たり | 総額 |
|---|---|---|---|---|
| 2025年6月18日 定時株主総会 | 2025年3月31日 | 2025年6月19日 | 75円(株式分割前) | 149,262 |
| 2025年11月6日 取締役会 | 2025年9月30日 | 2025年12月8日 | 40円 | 152,343 |
2件の合計は301,605百万円です。連結持分変動計算書の「剰余金の配当」(親会社の所有者に帰属する持分)は301,566百万円、連結キャッシュ・フロー計算書の「配当金の支払額」は301,547百万円で、いずれもほぼ同じ水準です。
配当金総額304,566百万円とCFの支払額301,547百万円の差は3,019百万円です。この差の大半は、当期の期末配当(152,343百万円)と前期の期末配当(149,262百万円)の差3,081百万円で説明できます。期末配当1回分が入れ替わっていることが、ずれの中心です。
細かい差が残る点に注意
有価証券報告書の注記によると、中間と期末の配当金の総額には、役員報酬BIP信託口が保有する自社株への配当がそれぞれ60百万円含まれています。152,343×2=304,686百万円と短信の304,566百万円の差120百万円は、この60百万円×2と一致します。どの株式を集計に含めるかで、資料ごとに数字が少し変わるということです。注記・持分変動・CFの間に残る数十百万円の差も、開示資料だけでは内訳を特定できません。端数の差まで一致させようとせず、どの範囲を集計した数字なのかを注記で確かめるのが現実的です。
日立の基準日と支払開始日で確かめる
日立製作所の2026年3月期でも、同じ構造が見えます。
日立のIRサイト「株主還元」のページ(2026年10月22日取得)では、配当の基準日と支払開始日が次のように並んでいます。
| 配当 | 基準日 | 1株当たり | 支払開始日 |
|---|---|---|---|
| 2024年度・期末 | 2025年3月31日 | 22円 | 2025年6月5日 |
| 2025年度・中間 | 2025年9月30日 | 23円 | 2025年11月28日 |
| 2025年度・期末 | 2026年3月31日 | 27円 | 2026年6月4日 |
2026年3月期(2025年4月1日〜2026年3月31日)の期間に支払われたのは、上の2行(22円と23円)です。決算短信の配当金総額225,850百万円は中間23円と期末27円の合計に対応します。期末27円分(2026年4月27日の「期末配当予定に関するお知らせ」では総額121,493百万円の予定)は、2026年6月4日の支払いです。
連結キャッシュ・フロー計算書の「配当金の支払」は204,915百万円、連結持分変動計算書の「親会社株主に対する配当金」は205,070百万円です。配当金総額との差は20,935百万円で、1株当たり配当が22円から27円へ増えた期末配当の入れ替わりが反映されています。
なお、日立の決算短信(2026年4月27日)の時点では、期末配当は「5月の取締役会で確定」とされていました。短信の配当金総額を使う場合は、確定前の予定額かどうかにも注意が必要です。
親会社株主への配当と非支配株主への配当を分ける
CF計算書の財務活動の区分には、配当の行が2本あります。1本は親会社の株主への配当、もう1本は非支配株主への配当です。非支配株主への配当は、上場子会社などが、親会社以外の株主に払う配当を指します。
| 会社(2026年3月期) | 区分 | 持分変動計算書 | CF計算書 |
|---|---|---|---|
| KDDI | 親会社株主 | 301,566 | 301,547 |
| KDDI | 非支配株主 | 54,260 | 53,695 |
| 日立 | 親会社株主 | 205,070 | 204,915 |
| 日立 | 非支配株主 | 38,036 | 38,498 |
(単位:百万円)
個人株主が受け取る配当と対応するのは、親会社株主の行だけです。非支配株主への配当は、短信の「配当金総額」には含まれません。一方で、グループ全体から出ていく現金という意味では、こちらも資金の流出です。2本を合算するか、親会社分だけを見るかを、目的に合わせて決めておきましょう。
照合の手順
- 決算短信の「配当の状況」で、当期に属する1株配当と配当金総額を確認する
- 有価証券報告書の配当注記で、当期中に効力が発生した配当(前期末・当期中間)の基準日・効力発生日・総額を確認する
- 同じ注記の「基準日が当期に属し、効力発生日が翌期となるもの」で、翌期に支払う期末配当を確認する
- 連結持分変動計算書とCF計算書で、親会社株主分と非支配株主分を分けて照合する
読むときの注意点
- 増配が続いている期間は、配当金総額がCFの支払額を上回りやすくなります。逆に減配した期は、CFの支払額のほうが大きくなりがちです。どちらの数字を使ったかで、配当余力の評価が変わります。
- KDDIは2025年4月1日に1株を2株に分割しています。前期末配当の75円は分割前の金額なので、1株配当を単純に並べると比較を誤ります。
- 配当余力をキャッシュで確かめる方法は、フリーキャッシュフローで配当余力を確認する方法で解説しています。CF計算書の全体の読み方は、キャッシュフロー計算書で利益の質を見抜く方法が参考になります。
まとめ
- 決算短信の配当金総額は「基準日が当期に属する配当」、CF計算書の配当金の支払額は「当期中に払った現金」で、数えている期間がずれています。
- 3月決算の会社では、当期のCFに前期の期末配当が入り、当期の期末配当は翌期のCFに回ります。KDDI・日立の2026年3月期でも、差の中心は期末配当の入れ替わりでした。
- 有価証券報告書の配当注記で基準日と効力発生日を確かめ、持分変動計算書とCF計算書では親会社株主分と非支配株主分を分けて読むと、数字のつながりを自分で確認できます。
- 本記事の数値は2026年3月期の開示に基づくもので、将来の配当額や利回りを示すものではありません。
本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
出典
- KDDI「2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」(2026年5月12日公表、対象期間2025年4月1日〜2026年3月31日)
- KDDI「有価証券報告書(第42期)」(事業年度2025年4月1日〜2026年3月31日、連結財務諸表注記「23.配当金」ほか)
- 日立製作所「株主還元(配当金・自己株式の取得)」(2026年10月22日取得)
- 日立製作所「2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」(2026年4月27日公表)
- 日立製作所「期末配当予定に関するお知らせ」(2026年4月27日公表)
免責事項
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、正確性・完全性を保証するものではありません。投資に関する最終的な決定は、ご自身の判断と責任において行ってください。