会社員とフリーランスの手取り・保障・経費を比較
- 結論:同じ年収・売上600万円で比べると、フリーランスの手取りは会社員より約118万円少なくなる試算となる
- 理由:傷病手当金・雇用保険・厚生年金の会社折半分が消え、国民健康保険料は全額自己負担になるため
- 確認点:経費の計上余地・青色申告特別控除・案件単価アップで手取りを改善できるかを転向前に試算すること
比較の3つの軸
「フリーランスは経費を使えるから手取りが多い」と思われがちだが、実態はそう単純ではない。会社員とフリーランスの手取りを決定づけるのは、次の3つの軸だ。
- 社会保険料の負担構造(誰がどれだけ払うか)
- 税控除の仕組み(課税所得をどこまで圧縮できるか)
- 保障のカバー範囲(病気・失業・老後に何が出るか)
この3軸を整理することで、独立の金銭的コストと失うもの・得るものの全体像が見えてくる。
社会保険料の負担構造
会社員の社会保険
会社員が加入する社会保険は主に4種類で、保険料は労使折半が原則だ。
| 保険の種類 | 合計料率 | 労働者負担 | 事業主負担 |
|---|---|---|---|
| 厚生年金保険 | 18.3% | 9.15% | 9.15% |
| 健康保険(協会けんぽ東京・2026年3月分〜) | 9.85% | 4.925% | 4.925% |
| 雇用保険(2026年4月〜) | 1.55% | 0.5% | 1.05% |
| 労災保険 | 業種別 | 0% | 全額 |
年収600万円(標準報酬月額50万円)の場合、自己負担の社会保険料は年間約87.5万円となる。
- 厚生年金(折半分): 50万円 × 9.15% × 12か月 ≈ 54.9万円
- 健康保険(東京・折半分): 50万円 × 4.925% × 12か月 ≈ 29.6万円
- 雇用保険: 600万円 × 0.5% = 3万円
ただし会社はこれとは別に、厚生年金9.15%・健康保険4.925%・雇用保険1.05%を負担している。事業主負担を含めた社会保険料の総額はおよそ175万円に上り、その半分は給与明細に載らない形で労働者を守る仕組みになっている。
フリーランスの社会保険
フリーランス(個人事業主)は健康保険組合や厚生年金から外れ、国民健康保険と国民年金に自力で加入する。
| 保険の種類 | 2026年度の目安 |
|---|---|
| 国民年金(令和8年度) | 月額17,920円(年間約21.5万円) |
| 国民健康保険 | 所得・自治体によって大きく異なる(年間40〜60万円が目安) |
国民健康保険料は市区町村ごとに算定方法が異なる。東京23区を例に取ると、前年の事業所得(青色申告特別控除後)から住民税の基礎控除(43万円)を差し引いた額に、医療分と後期高齢者支援分の所得割率(合算で概ね10%前後)と均等割を加算して算出する。
青色申告控除後の事業所得が385万円の場合(後述のシミュレーション参照)、東京23区・40歳未満では概算で年間約40〜41万円となる(年齢・扶養状況・自治体によって大幅に変動するため、実際の金額は居住する市区町村に確認すること)。
フリーランスの社会保険料合計の目安:
- 国民年金: 約21.5万円
- 国民健康保険(東京23区・概算): 約40万円
- 合計: 約61.5万円
自己負担額だけ見ると会社員(約87.5万円)より少なく見えるが、厚生年金の会社折半分(年約55万円相当)が老後の年金受給額に反映されなくなる点が大きな落とし穴だ。
税控除の仕組みの違い
会社員:給与所得控除が自動適用
会社員は確定申告をしなくても、給与の種類に応じた給与所得控除が源泉徴収の段階で自動的に適用される。
令和7年分以降の給与所得控除(年収別・主要区分):
| 給与収入 | 控除額 |
|---|---|
| 190万円以下 | 65万円(令和8年分は74万円) |
| 190万〜360万円 | 収入×30%+8万円 |
| 360万〜660万円 | 収入×20%+44万円 |
| 660万〜850万円 | 収入×10%+110万円 |
| 850万円超 | 195万円(上限) |
年収600万円なら164万円が控除される。さらに令和8年分から基礎控除が48万円→62万円に引き上げられた(合計所得2,350万円以下の場合)。これにより、以前より課税所得が小さくなる。
フリーランス:実費経費と青色申告特別控除が武器
フリーランスは事業に要した実際の経費を全額控除できる。さらに複式簿記でe-Taxを使って申告すれば、青色申告特別控除として65万円を追加で差し引けるため、経費規模と事業所得次第で課税所得を大きく圧縮できる。
売上600万円・経費150万円の場合の計算例:
- 売上600万円 − 経費150万円 = 事業収益450万円
- 青色申告特別控除 −65万円 = 事業所得385万円
一方、経費がほぼゼロ(PC作業メインで実費がかかりにくい)の場合は、会社員の給与所得控除164万円の方が有利になるケースもある。経費計上の余地があるかどうかが、フリーランスの税負担を左右する鍵だ。
保障の範囲の比較
手取りの差だけでなく、いざというときのセーフティネットも重要な比較軸になる。
病気・ケガで働けなくなったとき
| 保障の種類 | 会社員 | フリーランス |
|---|---|---|
| 傷病手当金 | ○(標準報酬日額の2/3・最長1年6か月) | × |
| 労災保険 | ○(業務上・通勤中の事故は全額補償) | △(特別加入で任意加入可) |
年収600万円(月収50万円)の会社員の場合、傷病手当金は1日あたり約11,000円(50万÷30×2/3)。3か月の休業でおよそ99万円が給付される。フリーランスには同様の制度がなく、休業中の収入はゼロになる。収入が途絶えても社会保険料や税の支払いは続くため、最低でも6か月分の生活費を現金で確保しておくことが必要だ。
廃業・失業したとき
| 保障の種類 | 会社員 | フリーランス |
|---|---|---|
| 雇用保険(失業給付) | ○(賃金の50〜80%・最大330日) | × |
| 小規模企業共済 | 加入不可 | ○(掛金全額が所得控除) |
フリーランスの廃業時の備えとして有力なのが小規模企業共済だ。月最大7万円(年間84万円)の掛金が全額所得控除になり、廃業・引退時に退職金として受け取れる。節税と廃業準備を同時に進められる数少ない制度だ。
老後の年金
厚生年金の報酬比例部分は在職中の報酬額と加入期間で積み上がる。会社員として年収600万円で30年間加入した場合、基礎年金に加えて老齢厚生年金が月10〜15万円程度上乗せされる見込みだ。フリーランスに転向するとこの積み上げが止まるため、iDeCo(個人型確定拠出年金)や国民年金基金による補填計画を事前に立てておきたい。
年収600万円のシミュレーション
2026年度の税・社保制度を基に試算する。フリーランスの経費は150万円と仮定し、いずれもe-Tax経由の青色申告を前提とする。
| 項目 | 会社員 | フリーランス |
|---|---|---|
| 収入(年収 or 売上) | 600万円 | 600万円 |
| 給与所得控除 or 事業経費 | △164万円 | △150万円(経費) |
| 青色申告特別控除 | — | △65万円 |
| 課税前の所得 | 436万円 | 385万円 |
| 社会保険料(自己負担) | △87.5万円 | △62万円(概算) |
| 基礎控除(所得税・令和8年分) | △62万円 | △62万円 |
| 課税所得(所得税計算用) | 約287万円 | 約261万円 |
| 所得税(復興税込・概算) | 約19.3万円 | 約16.7万円 |
| 住民税(所得割・概算) | 約30.6万円 | 約28万円 |
| 合計負担(税+社保) | 約137.4万円 | 約106.7万円 |
| 手取り(経費・税・社保控除後) | 約462万円 | 約344万円 |
※国民健康保険は東京23区・40歳未満の概算値を使用。住民税の基礎控除は地方税法の43万円で計算。個人の状況により実額は異なる。
差は約118万円となるが、フリーランスの経費150万円の一部(仕事道具・通信費・セミナー費用など)が生活費と重複するケースでは、純粋な可処分所得の差はこれより縮まる可能性もある。一方で国民健康保険料は自治体によって数十万円単位で異なるため、実際の居住地で計算することが必須だ。
フリーランスの詳細な手取り計算手順は フリーランスの手取りを概算する計算手順 を参照してほしい。
転向前に確認すべき4つのポイント
数字の比較を踏まえ、独立を検討する際の判断軸を整理する。
- 手取り目標を逆算する — 会社員時代の手取りを維持するには、売上をどこまで上げる必要があるか。税・社保・経費を含めて試算する。
- 傷病・廃業リスクへの備え — 傷病手当金がない分、6か月分以上の生活費を現金確保し、民間の所得補償保険や小規模企業共済も検討する。
- 厚生年金の喪失額を把握する — iDeCoや国民年金基金で老後の収入不足を補填する計画を立てる。
- 国民健康保険料を住所別にシミュレーションする — 居住自治体で数十万円の差が生じる。引越しを検討するなら保険料も比較ポイントになる。
お金の全体的な管理方法については フリーランスのお金管理:税金・保険・資金繰りの全体像 も参考にしてほしい。
まとめ
会社員とフリーランスを手取り・保障・経費の3軸で比較した結果を整理する。
- 手取り: 年収・売上が同じ600万円でも、フリーランスは約118万円少なくなる試算。経費の積み上げと売上増でこの差を縮めることは可能だが、損益分岐点の確認が欠かせない。
- 保障: 傷病手当金・雇用保険・厚生年金など、会社員の社会保障が手厚い。フリーランスは小規模企業共済・iDeCo・民間保険で自力補填が必要となる。
- 経費: フリーランスは実費経費+青色申告特別控除65万円を活用でき、事業規模が大きいほど節税効果が高まる構造だ。
独立後の手取りは「売上 − 経費 − 社会保険料 − 税」で決まる。転向前に具体的な数字でシミュレーションすることが不可欠だ。税・社会保険・将来の年金受給額への影響を総合的に判断するために、税理士や社会保険労務士への相談も有効な選択肢となる。
本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
出典
- No.2260 所得税の税率|国税庁(資料名: 所得税の税率・速算表、基準: 令和8年分)
- No.1410 給与所得控除|国税庁(資料名: 給与所得控除額の計算方法、基準: 令和7年分以降)
- 令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について|国税庁(基礎控除62万円、令和8年分以後適用)
- 国民年金保険料|日本年金機構(令和8年度: 月額17,920円)
- 2026年度の健康保険料率等について|協会けんぽ東京支部(東京支部健康保険料率: 9.85%、2026年3月分〜)
- 令和8(2026)年度 雇用保険料率のご案内|ハローワーク立川(一般事業の労働者負担: 0.5%、2026年4月〜)
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