売掛金が回収できないとき:貸倒れの処理と、その前にやること
- 結論:未入金はまず「督促→法的手続」で回収を試み、貸倒れの経費処理はそれでも回収できないと客観的に言える段階で初めて検討する。
- 理由:所得税法51条2項の貸倒損失は「回収できないこと」が要件で、督促もせず落としただけでは要件を満たしたと説明できないため。
- 確認点:支払期日はフリーランス法の60日以内か、債権の消滅時効(原則5年)までどれだけ残っているか、消費税の課税事業者かどうかの3点。
報酬が入金されない。この状態でまず調べたくなるのは「経費で落とせるか」ですが、順番は逆です。税務上の貸倒損失は、回収の努力をしたうえで回収できない事実が固まって初めて認められる処理で、入金がないという事実だけでは要件になりません。この記事では、督促の順番と、貸倒れとして必要経費にできる条件を、根拠条文と公的窓口にひもづけて整理します(本記事の制度内容は2026年9月23日時点のものです)。
入金が止まった最初の2週間にやること
最初にやるのは請求内容の事実確認です。請求書の送付先・振込先・支払サイト・検収の完了時期を自分の記録で確認し、こちらの不備で止まっている可能性を先に潰します。ここで不備が見つかれば、督促ではなく再請求で解決します。
次がメールでの督促です。電話だけで済ませないこと。あとで貸倒れや法的手続に進むとき、いつ・誰に・何を請求し・どう回答されたかの記録が判断材料そのものになります。督促メールには請求書番号、請求額、当初の支払期日、入金確認できない旨、回答期限を入れておきます。
| 段階 | 目安 | やること | 残す記録 |
|---|---|---|---|
| 1. 事実確認 | 期日翌日〜3日 | 請求書・振込先・検収状況の自己点検 | 送付履歴、検収連絡 |
| 2. 督促 | 期日後1週間 | メールで支払期日と回答期限を提示 | 送信メール、返信 |
| 3. 再督促 | 期日後2〜3週間 | 支払計画の確認、書面での通知 | 書面控え、合意内容 |
| 4. 公的窓口 | 改善がないとき | 公正取引委員会・中小企業庁への申出 | 申出内容、契約条件の明示書面 |
| 5. 法的手続 | 支払意思がないとき | 支払督促・少額訴訟・訴訟 | 裁判所の書類一式 |
請求や記録の整え方そのものは、見積書・請求書・領収書のお金管理チェックリストで扱っています。未払いを起こさない契約・記録の作り方は報酬未払いを防ぐ契約・請求・記録の確認項目を参照してください。
法律上の後ろ盾を確認する(60日ルールと申出窓口)
2024年11月1日に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス法)は、発注事業者に対し、給付の内容・報酬の額・支払期日などの取引条件を明示する義務と、期日における報酬支払義務を課しています。支払期日は、発注した物品等を受け取った日から60日以内のできる限り早い日に定める必要があります。受領拒否、不当な減額、買いたたき、不当な給付内容の変更ややり直しなども禁止行為として並んでいます。
つまり「検収から90日後払い」といった条件や、一方的な減額は、そもそも法が想定していない取引条件です。違反が疑われる場合、フリーランス側は公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省への申出ができ、オンラインの申出受付フォームも用意されています。取引適正化(第3〜5条)関係は公正取引委員会・中小企業庁、就業環境整備(第12〜14条)関係は厚生労働省が担当です。
加えて、2026年1月1日には下請代金支払遅延等防止法(下請法)の改正法が施行され、通称が中小受託取引適正化法(取適法)に変わりました。協議に応じない一方的な価格決定の禁止や、手形払いの禁止(電子記録債権やファクタリングで期日までに満額を得られない場合も含む)、振込手数料を受注側に負担させることの禁止などが加わっています。相手が資本金基準等で取適法の対象になるなら、こちらの根拠も併用できます。
督促で動かないときの法的手続と時効
支払意思が見えない相手には、裁判所の手続に移ります。金銭請求だけなら支払督促が軽い手続で、相手の住所地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に申し立てます。申立手数料は訴訟の半額で、たとえば100万円の請求なら訴訟1万円に対し支払督促5,000円です。債務者は受け取ってから2週間以内に督促異議を申し立てられ、異議が出れば通常訴訟に移行します。異議がなければ、送達日の翌日から起算して2週間目の翌日から30日以内に仮執行宣言を申し立て、強制執行に進めます。
請求額が60万円以下の金銭支払なら、原則1回の審理で終える少額訴訟も選べます。相手が争う姿勢を明確にしている場合は、異議で通常訴訟になる支払督促より、最初から少額訴訟や訴訟を選ぶほうが早いこともあります。
同時に見ておくのが消滅時効です。民法166条1項により、債権は「権利を行使することができることを知った時から5年」または「権利を行使することができる時から10年」で時効消滅します。報酬債権は支払期日を知っているのが通常なので、実質は支払期日から5年が目安になります。督促を繰り返すだけでは時効は確定的に止まりません。期限が近いなら、法的手続に進む判断を先送りしないことです。
貸倒損失として必要経費にできる条件
事業所得を生ずべき事業の売掛金が回収不能になった場合、その損失は所得税法51条2項により、損失が生じた年分の必要経費に算入されます。条文は「事業の遂行上生じた売掛金、貸付金、前渡金その他これらに準ずる債権の貸倒れ」を対象としており、事業として請けた報酬の未回収はここに収まります。青色・白色を問わず適用できる点も押さえておきます。
一方、所得を雑所得として申告している場合は扱いが違います。所得税法64条1項は、事業所得を除く各種所得について、収入金額を回収できなくなったときにその収入がなかったものとみなす規定で、必要経費算入ではなく収入の取り消しという形になります。自分の所得区分を先に確認してください。
「いつ落とせるか」の判断軸は、国税庁が貸倒損失の解説で示している次の3類型が実務の共通言語になっています。
- 法律上の貸倒れ:更生計画認可の決定や再生計画認可の決定などで債権が切り捨てられた場合、債権者集会の協議決定や行政機関・金融機関のあっせんによる合理的基準での切捨て、債務超過の状態が相当期間続く相手への書面による債務免除。
- 事実上の貸倒れ:債務者の資産状況・支払能力等から、その全額が回収できないことが明らかになった場合。担保物があるときは処分後でなければ計上できません。
- 形式上の貸倒れ:継続的な取引先との取引を停止し、取引停止の時・最後の弁済の時などのうち最も遅い時から1年以上経過したとき。あるいは、同一地域の債務者に対する売掛債権の総額が取立費用に満たず、督促しても弁済がないとき。
注意したいのは、形式上の貸倒れが継続的な取引先の売掛債権を前提にしている点です。スポットで一度受けただけの相手に対する未回収は、この形式基準では説明しにくく、事実上の貸倒れとして相手の支払能力を示す資料を集める必要があります。どの類型でも、相手の状況や切捨ての事実を示す書類を保存しておくことが前提になります。
消費税と貸倒引当金の扱い
消費税の課税事業者なら、売上に消費税を乗せて請求した分が回収できなかったとき、消費税法39条に基づく貸倒れに係る税額の調整が使えます。貸倒れとなった金額に対応する消費税額を、貸倒れが発生した課税期間の課税標準額に対する消費税額から控除する仕組みです。対象となる事実は所得税側とほぼ同じ整理(更生計画等による切捨て、支払能力から全額弁済できないことが明らかなこと、協議決定による切捨て、書面による債務免除)で、債権の切捨ての事実を証する書類など、貸倒れの事実を明らかにする書類の保存が要件です。なお、貸倒れとして控除した債権を後日回収したときは、回収した課税期間の課税売上げに係る消費税額に加算する調整が必要になります。
回収不能が現実化する前の備えとしては、青色申告者の貸倒引当金があります。国税庁の青色申告制度の解説では、事業所得を生ずべき事業を営む青色申告者は、年末の貸金の帳簿価額の合計額の5.5%以下(金融業は3.3%以下)を貸倒引当金勘定へ繰り入れ、必要経費にできるとされています(一括評価)。個別評価で損失見込額を繰り入れた債権は、一括評価の対象から外します。翌年に戻し入れる前提の繰延べですが、期末に大きな売掛金を抱える人には効く選択肢です。
判断を間違えないための整理
未回収を税務処理に持ち込む前に、次の順で自問すると判断がぶれません。
- 支払期日と検収日はいつか。フリーランス法の60日以内に収まる条件だったか。
- 督促の記録は残っているか。相手の回答(分割の申し出、無反応、連絡不通)はどれか。
- 支払意思はあるが資金がないのか、意思自体がないのか。前者は法的手続、後者は公的窓口も併用。
- 時効まで何年残っているか。5年の目安に対して余裕はあるか。
- 3類型のどれで説明できるか。裏づける書類は手元にあるか。
- 課税事業者か。消費税の調整と書類保存まで手当てできるか。
回収可能性が残る債権を早めに落とすのは、後で否認されるリスクを自分で作る行為です。逆に、相手が破産して配当もないと分かっているのに帳簿に残し続けると、所得を過大に申告することになります。どちらも「事実がどこまで固まったか」で決まります。強気に回収を続ける材料(相手の事業継続、部分入金の実績)と、貸倒れに傾く材料(連絡不通、他の取引先への不払い情報、法的整理の開始)を並べて、判断した日付と根拠をメモに残しておくと、後から自分でも説明できます。
まとめ
未入金への対応は、事実確認→督促→公的窓口・法的手続→貸倒れ判定という順番で進めます。フリーランス法は支払期日を受領日から60日以内とし、2026年1月1日施行の取適法では手形払い禁止なども加わりました。回収がどうしても見込めなくなった段階で、事業所得なら所得税法51条2項の貸倒損失、雑所得なら64条1項の収入取消し、課税事業者なら消費税法39条の税額調整という3本立てで処理します。判断のカギは、3類型のどれで説明できるかと、それを裏づける書類が残っているかです。制度の細部は改正で動くため、実際の申告前に国税庁の最新の解説を確認し、金額が大きい場合は税理士への相談も検討してください。
本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
出典
- 所得税法 第51条(資産損失の必要経費算入)・第64条(資産の譲渡代金が回収不能となつた場合等の所得計算の特例)|e-Gov法令検索(2026年9月23日閲覧)
- 民法 第166条(債権等の消滅時効)|e-Gov法令検索(2026年9月23日閲覧)
- No.5320 貸倒損失として処理できる場合|国税庁タックスアンサー(2026年9月23日閲覧)
- No.6367 貸倒れに係る税額の調整|国税庁タックスアンサー(2026年9月23日閲覧)
- No.2070 青色申告制度|国税庁タックスアンサー(2026年9月23日閲覧)
- フリーランスの取引適正化に向けた公正取引委員会の取組(フリーランス・事業者間取引適正化等法、2024年11月1日施行)|公正取引委員会(2026年9月23日閲覧)
- フリーランス・事業者間取引適正化等法の違反被疑事実についての申出窓口|公正取引委員会(2026年9月23日閲覧)
- 【2026年1月1日施行】受注者を守る法!手形払い禁止など「取適法」がもたらす変化|中小企業庁 ミラサポplus(2026年9月23日閲覧)
- 支払督促|裁判所(2026年9月23日閲覧)
- 少額訴訟|裁判所(2026年9月23日閲覧)