金利上昇局面の高配当株:債券・預金との使い分け
- 結論:金利が上がった局面では「高配当株か債券か」の二択ではなく、使う時期が決まっているお金は債券・預金、長期で増やす部分は高配当株、と役割で分けるのが基本。
- 理由:2026年8月31日時点で10年国債利回りは2.943%まで上昇し、元本と利払いが約束された資産でも一定の利回りが取れる一方、高配当株の配当は約束されていないため。
- 確認点:利回りは税引後で比べる(配当は原則20.315%課税、配当控除やNISAで変わる)、そして「その資金をいつ使うか」を先に決める。
「高配当株の利回りが3%台なら、国債や定期預金より有利」——低金利が長く続いた時期には、この比較はほぼ自動的に高配当株の勝ちでした。しかし金利が上昇すると前提が変わります。本記事では、高配当株 債券 金利上昇というテーマを、公的機関の一次情報の数字を基準日付きで確認しながら、初心者の方向けに整理します。
「債券の配当金」は正しくは利子所得——呼び方の違いを先に整理する
「債券の配当金」という言葉で検索すると、期待と違う結果に行き着くことがあります。日本の税法上、国債や預金の受取額は配当所得ではなく利子所得に分類されるためです。国税庁タックスアンサーNo.1310「利息を受け取ったとき(利子所得)」は、利子所得を「預貯金および公社債の利子ならびに合同運用信託、公社債投資信託および公募公社債等運用投資信託の収益の分配に係る所得」と定義しています(2026年9月時点)。一方、株式の受取額は後述するNo.1330のとおり配当所得です。源泉徴収の税率はどちらも20.315%(所得税・復興特別所得税15.315%+地方税5%)で同じですが、後述する配当控除(No.1250)は配当所得だけの制度で、利子所得には適用されません。「配当金」という同じ言葉のイメージで比較すると、この制度差を見落としやすくなります。
まず現在地:2026年時点の金利水準を確認する
判断の出発点は「今、安全資産でどれくらいの利回りが取れるか」です。基準日付きで並べると次のようになります。
| 項目 | 水準 | 基準日・出典 |
|---|---|---|
| 政策金利(無担保コールレート翌日物の誘導目標) | 1.0%程度 | 2026年7月31日 日本銀行決定 |
| 10年国債(金利情報ベース) | 2.943% | 2026年8月31日 財務省 |
| 個人向け国債 変動10年 適用利率 | 年1.87%(税引前) | 2026年8月募集分(発行日2026年9月15日) |
| 個人向け国債 固定5年 適用利率 | 年2.06%(税引前) | 同上 |
| 個人向け国債 固定3年 適用利率 | 年1.71%(税引前) | 同上 |
日本銀行は2026年6月16日に誘導目標を1.0%程度へ引き上げ、7月31日の会合でもこれを維持しました。かつて「預けても増えない」が当たり前だった環境から、安全資産にも利回りが戻ってきた局面と言えます。
ここで重要なのは、個人向け国債の「適用利率」が税引前の数字だという点です。2026年8月募集分の変動10年は適用利率1.87%に対し、税引後に相当する表面利率は1.4901095%と財務省が明示しています。株式の配当と比べるときは、同じ税引後ベースに揃える必要があります。
高配当株と債券・預金は「リスクの種類」が違う
利回りの数字だけを並べると同じ土俵に見えますが、キャッシュフローの確からしさがまったく違います。
| 観点 | 高配当株 | 個人向け国債・預金 |
|---|---|---|
| 受取額の約束 | なし(企業の判断で増配・減配・無配) | あり(利率と償還が定められている) |
| 元本 | 株価変動で増減する | 個人向け国債は中途換金でも額面回復(一定の調整額を差し引く) |
| インフレ耐性 | 増配があれば追随余地あり | 固定金利は目減りリスク、変動10年は金利連動 |
| 主な下振れ要因 | 業績悪化、配当政策の変更、株価下落 | 金利上昇時の市場価格(既発債)、実質価値の目減り |
たとえば三菱UFJフィナンシャル・グループは、2026年3月期に年間86円(中間35円・期末51円)を支払い、2027年3月期は年間96円(中間48円・期末48円)を予想しています(同社IRサイト、2026年9月2日閲覧)。堅調な増配計画ですが、これは会社予想であって確定額ではありません。金利上昇は銀行の利ざや改善という強気材料になる一方、景気減速局面では与信費用の増加が利益を圧迫します。この見方は銀行株の配当を見るときの自己資本・金利・与信費用で詳しく整理しています。
つまり「10年国債2.943%(2026年8月31日)に対して配当利回り3%台の株」は、同じ3%でも中身が別物です。前者は約束された3%弱、後者は約束のない3%台。金利が上がるほど、この差に対して求める上乗せ(リスクプレミアム)は大きくなるのが自然です。
税引後で比べないと判断を誤る
上場株式の配当は、原則として所得税・復興特別所得税15.315%と地方税5%、合計20.315%が源泉徴収されます(国税庁タックスアンサーNo.1330、2026年9月2日閲覧)。国債の利子も同様に20.315%が源泉徴収されるため、単純な比較なら税率は同じです。
差がつくのは以下の2点です。
配当控除
確定申告で総合課税を選んだ上場株式等の配当は、配当控除の対象になり得ます。課税総所得金額等が1,000万円以下の場合、剰余金の配当は原則10%(所得税)の税額控除が受けられます(国税庁タックスアンサーNo.1250、2026年9月2日閲覧)。申告分離課税を選ぶと配当控除は適用されません。国債の利子にはこの制度がないため、所得水準によっては株式配当の税引後利回りが相対的に有利になります。ただし総合課税は他の所得と合算され、社会保険料等への影響もあり得るため、有利不利は個々の状況次第です。
NISA
金融庁の説明によれば、2024年からのNISAは年間投資枠がつみたて投資枠120万円・成長投資枠240万円の合計360万円、非課税保有限度額は1,800万円(うち成長投資枠1,200万円)、非課税保有期間は無期限です(金融庁NISA特設ウェブサイト、2026年9月2日閲覧)。非課税枠の中では配当の20.315%がゼロになるため、税引後で見た高配当株の相対的な魅力は課税口座より高くなります。一方、個人向け国債はNISAの対象外です。この非対称性は、金利が上がった局面でも高配当株を持つ理由のひとつになります。
使い分けの判断軸は「利回り」ではなく「いつ使うか」
金利上昇局面での実務的な線引きは、次の順序で考えると迷いにくくなります。
- 使う時期が決まっているお金(3年以内の教育費、住宅頭金、生活防衛資金)は債券・預金へ。個人向け国債は最低保証利率0.05%かつ発行から1年経過後は中途換金でき、価格変動で元本が削られない設計です。株価下落と支出タイミングが重なるリスクを負う理由がありません。
- 10年以上使う予定のないお金は、高配当株を含む株式を検討する余地があります。配当は約束されませんが、増配によってインフレに追随する可能性があるのは株式側の強みです。
- その中間は、NISA枠の残り、必要なキャッシュフローの額、値動きへの耐性で配分を決めます。
高配当株側の強気材料とリスクを併記する
- 強気材料:企業の株主還元強化姿勢、増配による受取配当の成長、NISAでの非課税、金融セクターでは金利上昇が利ざや改善につながる可能性。
- リスク:安全資産の利回り上昇で相対的な魅力が低下する、割引率上昇による株価バリュエーションの下押し、借入比率の高い企業では支払利息増加が配当原資を圧迫する、業績悪化時の減配。
- 判断条件:安全資産の税引後利回りに対して、どれくらいの上乗せがあれば株式リスクを取るかを自分の基準として先に決めておく。決めずに利回りだけを見ると、金利が上がるたびに判断がぶれます。
なお、高配当株そのものを持つ目的が「取り崩しの代わりのキャッシュフロー」なのか「資産の最大化」なのかで結論は変わります。この点は高配当株とインデックス投資の違い:目的別の考え方も併せて確認してください。
よくある誤解を3つ整理する
- 「金利が上がったら高配当株は全部売り」ではない:金利は高配当株の相対評価を下げる一因ですが、企業の稼ぐ力と配当政策が変わらなければ受取配当額そのものは減りません。売買判断は保有目的と資金用途に紐づけるべきです。
- 「利回りが国債より高いから割安」ではない:配当利回りは株価が下がっても上がります。減配リスクを織り込んだ結果の高利回りである可能性を、業績とキャッシュフローで確認する必要があります。
- 「債券なら安全」ではない:既発債は金利上昇時に市場価格が下落します。価格変動を避けたいなら、中途換金時の取扱いが定められた個人向け国債のような商品性を確認することが前提です。
まとめ
2026年7月31日時点の政策金利は1.0%程度、2026年8月31日時点の10年国債利回りは2.943%、2026年8月募集分の個人向け国債は変動10年が適用利率1.87%(税引前)。安全資産に利回りが戻った以上、高配当株は「利回りが取れる唯一の選択肢」ではなくなりました。だからこそ、使う時期が決まっているお金は債券・預金、長期で持てるお金は株式という役割分担が効いてきます。比較する際は税引後に揃え、配当控除やNISAの非課税枠まで含めて実質利回りを見ること、そして高配当株については増配の材料と減配の条件を両方言語化しておくこと。この2つができていれば、金利水準が動いても判断軸はぶれません。
本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
出典
- 日本銀行「当面の金融政策運営について」(2026年7月31日公表、無担保コールレート(オーバーナイト物)を1.0%程度で推移するよう促す)
- 財務省「国債金利情報」(10年債2.943%、2026年8月31日時点)
- 財務省「現在募集中の個人向け国債・新窓販国債」(2026年8月募集分=変動10年1.87%・固定5年2.06%・固定3年1.71%、発行日2026年9月15日、2026年9月2日閲覧)
- 金融庁「NISAを知る」NISA特設ウェブサイト(年間投資枠360万円・非課税保有限度額1,800万円・非課税保有期間無期限、2026年9月2日閲覧)
- 国税庁 タックスアンサーNo.1310「利息を受け取ったとき(利子所得)」(預貯金および公社債の利子等を利子所得と定義、2026年9月時点)
- 国税庁 タックスアンサーNo.1330「配当金を受け取ったとき(配当所得)」(上場株式等の配当は15.315%+地方税5%を源泉徴収、2026年9月2日閲覧)
- 国税庁 タックスアンサーNo.1250「配当所得があるとき(配当控除)」(課税総所得金額等1,000万円以下の剰余金の配当は10%、2026年9月2日閲覧)
- 三菱UFJフィナンシャル・グループ「配当金」(2026年3月期年間86円実績・2027年3月期年間96円予想、2026年9月2日閲覧)
免責事項
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、正確性・完全性を保証するものではありません。投資に関する最終的な決定は、ご自身の判断と責任において行ってください。