高配当株の買い時をPER・PBR・利回り履歴で考える
- 結論:PER・PBR・配当利回りは「今の水準が過去のレンジのどこにあるか」を見て初めて割安・割高の判断材料になる。単月の数値だけでは買い時は分からない。
- 理由:指標は業績や株価分割で基準が変わるうえ、単体決算・連結決算のどちらを使うかでも数値が変わるため、単純な横並び比較は誤読を招きやすい。
- 確認点:過去5期の実績値と業種平均を照らし合わせ、配当性向の上昇や一時的な利益変動がないかを有価証券報告書で確認してから判断する。
「配当利回りが高いから今が買い時だ」という判断は、実は半分しか根拠を見ていません。利回りは株価が下がるだけでも上昇するため、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)とあわせて、その会社の過去の水準と比べてどうかを確認する必要があります。本記事では、候補株の割高・割安を点検したい投資家に向けて、PER・PBR・配当利回りの読み方と、過去の推移から買い時を考える手順を、NTT株式会社(証券コード9432)の有価証券報告書と東京証券取引所の統計資料という一次情報に基づいて解説します。
PER・PBR・配当利回りの基本と計算式
まず3つの指標の定義を整理します。
- PER(株価収益率)= 株価 ÷ 1株当たり当期純利益(EPS):利益に対して株価が何倍で買われているかを示す。数値が低いほど「利益の割に株価が安い」とされる。
- PBR(株価純資産倍率)= 株価 ÷ 1株当たり純資産(BPS):会社の解散価値(純資産)に対して株価が何倍かを示す。1倍を下回ると理論上は純資産以下で株が買えることになる。
- 配当利回り= 1株当たり年間配当金 ÷ 株価 × 100:投資額に対して配当金でどれだけ還元されるかを示す。
いずれも分母が株価である点が共通しています。株価が下落すればPERもPBRも下がり、配当利回りは上がります。したがって「数値が良く見える」ことが、業績の改善によるものか、単に株価が売られた結果なのかを見分ける必要があります。この視点は高配当株投資の始め方:利回りだけで選ばない基本手順でも触れている、利回りだけに頼らない銘柄チェックの考え方と共通しています。
単体決算か連結決算かで数値が変わる点に注意
見落とされがちですが、同じ銘柄でもPBRの数値が資料によって異なることがあります。NTT株式会社の例で確認します。
NTT株式会社の有価証券報告書(第41期、事業年度自2025年4月1日至2026年3月31日、2026年6月15日付)によると、提出会社(単体)ベースの2026年3月期末の1株当たり純資産額は84.57円、1株当たり当期純利益は11.21円です。一方、連結ベースの1株当たり株主資本は119.47円、基本的1株当たり当社に帰属する当期利益は12.61円と、単体より大きい数値になっています。
2026年8月12日終値158.4円(Yahoo!ファイナンス)で計算すると、
| 基準 | PER | PBR |
|---|---|---|
| 単体ベース(有価証券報告書) | 158.4 ÷ 11.21 ≈ 14.1倍 | 158.4 ÷ 84.57 ≈ 1.87倍 |
| 連結ベース(有価証券報告書) | 158.4 ÷ 12.61 ≈ 12.6倍 | 158.4 ÷ 119.47 ≈ 1.33倍 |
同じ株価でもPBRが1.3倍台か1.8倍台かで印象は大きく変わります。多くの株式情報サイトは連結ベースを表示しますが、有価証券報告書の「提出会社の経営指標等」は単体ベースで記載されているため、比較する数値がどちらの基準かを必ず確認してください。
過去5期の推移から水準を点検する:NTTの実例
単発の数値だけでなく、複数年の推移を見ることで「今が過去と比べて高いか安いか」が分かります。NTT株式会社の有価証券報告書(第41期)に記載された提出会社ベースの経営指標を、2022年3月期(第37期)から2026年3月期(第41期)まで並べます。
| 決算期 | 1株当たり配当額 | 1株当たり当期純利益 | 株価収益率(PER) | 配当性向 |
|---|---|---|---|---|
| 2022年3月期 | 115.00円 | 5.25円 | 27.0倍 | 87.7% |
| 2023年3月期 | 120.00円 | 13.23円 | 12.0倍 | 36.3% |
| 2024年3月期 | 5.10円 | 13.76円 | 13.1倍 | 37.1% |
| 2025年3月期 | 5.20円 | 13.70円 | 10.6倍 | 38.0% |
| 2026年3月期 | 5.30円 | 11.21円 | 14.0倍 | 47.3% |
このようにNTT株式会社は2023年7月1日を効力発生日として普通株式1株を25株に分割しており、2022年3月期・2023年3月期の配当額・株価は分割前の実額です。分割をまたいで配当利回りや配当額を比較するときは、分割比率で調整した数値を使わないと、実際には増配していても「大幅減配」のように見えてしまう典型的な誤読が起きます。
この5期で見ると、2026年3月期のPER14.0倍は直近では最も高い水準にあり、配当性向も87.7%だった2022年3月期を除けば5期で最も高い47.3%まで上昇しています。純利益が前期の13.70円から11.21円へ減少する一方、配当は5.20円から5.30円へ増額されたため、配当性向が押し上げられた形です。同社は2026年5月14日付で2027年3月期の年間配当予想を5.40円(前期比+0.1円、16期連続の増配方針)としており、増配自体は継続していますが、利益の伸びが伴うかどうかは次期の決算で確認が必要な点です。
業種平均・市場平均と比較する
個別銘柄の水準は、同じ業種や市場全体の平均と比べることでも相対的な位置づけが見えてきます。日本取引所グループが公表する「規模別・業種別PER・PBR」(2026年7月末時点)によると、東証プライム市場全体の単純平均PERは18.5倍・PBRは1.5倍、情報・通信業の単純平均PERは18.1倍・PBRは2.0倍です。
これと比べると、NTT株式会社のPER(単体ベース約14.1倍、連結ベース約12.6倍)はいずれも業種平均の18.1倍を下回っています。PBRは単体ベース約1.87倍であれば業種平均の2.0倍に近く、連結ベース約1.33倍であれば業種平均・市場平均のいずれも下回ります。「業種平均より低い=割安」と単純化はできませんが、同業他社や市場平均との相対比較は、その企業固有の材料(業績懸念・成長期待など)がどの程度株価に織り込まれているかを考える手がかりになります。
買い時を判断する前のチェックリスト
PER・PBR・利回りの水準を確認したうえで、以下の点も合わせて点検することをおすすめします。
- 過去5〜10期のレンジのどこにあるか:直近の数値が過去の平均より高いか低いかを確認する
- 配当性向の推移:今回のNTT株式会社の例のように、配当性向が上昇傾向にあるときは、利益の裏付けなき増配でないかを確認する
- 株式分割・自己株式取得の有無:分割前後で配当額・株価の単純比較をしていないか確認する
- 単体・連結どちらの基準か:比較対象のPBR・PERが同じ基準で計算されているか確認する
- 業種平均との比較:個別銘柄の割安感が業種全体の地合いによるものでないか確認する
強気材料としては、増配方針の継続や配当性向がなお100%を下回っている点が挙げられます。一方でリスクとしては、純利益の減少が続けば配当性向がさらに上昇し、将来的な増配余地が狭まる可能性がある点、また今回の指標はあくまで2026年3月期・2026年7月末・2026年8月12日という特定時点のデータであり、次の決算や株価変動によって水準が変わる点に留意が必要です。買い時かどうかは、これらの条件を総合的に見て、ご自身の投資方針に照らして判断することになります。配当を再投資した場合の複利効果を試算したい方は、配当再投資の複利効果を試算する方法も参考にしてください。
まとめ
高配当株の買い時は、配当利回りの高さだけでなく、PER・PBRを過去5期程度の推移や業種平均と照らし合わせて確認することで、より根拠のある判断に近づきます。NTT株式会社の実例では、2026年3月期のPERは過去5期で最も高い水準にあり、配当性向も上昇しているため、増配が続く一方で利益の裏付けを次期以降も確認する必要があることが分かりました。また、株式分割の有無や単体・連結どちらの基準かによって数値の見え方が変わる点も、比較を誤らないための重要な確認事項です。本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
出典
- NTT株式会社 有価証券報告書(第41期、事業年度自2025年4月1日至2026年3月31日、2026年6月15日付)
- 日本取引所グループ「規模別・業種別PER・PBR」2026年7月分
- NTT株式会社 株主還元(配当・自己株式取得)ページ、2026年5月14日更新
- Yahoo!ファイナンス NTT株式会社(9432)株価情報、2026年8月12日終値時点
免責事項
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、正確性・完全性を保証するものではありません。投資に関する最終的な決定は、ご自身の判断と責任において行ってください。