副業収入は事業所得か雑所得か:国税庁の判定基準と帳簿の関係
- 結論:取引を記録した帳簿を作って保存していれば、副業収入は「概ね事業所得」と扱われる余地があります。帳簿がなければ、原則として業務に係る雑所得になります。
- 理由:国税庁が2022年10月7日に改正した所得税基本通達35-2は、社会通念を判定の基本としたうえで、帳簿書類の保存がない場合は雑所得になると明記しました。
- 確認点:帳簿があっても、収入が例年300万円以下で主な収入の10%未満の場合や、例年赤字のまま改善の取組をしていない場合は、個別に判断されます。
会社員の副業やフリーランスの収入を確定申告するとき、多くの人が迷うのが「事業所得」と「雑所得」のどちらで申告するかです。この区分によって、赤字を給与所得と相殺できるかどうかや、青色申告特別控除を使えるかどうかが変わります。
この記事では、国税庁の所得税基本通達35-2とその解説、タックスアンサーの内容をもとに、判定の手順と帳簿との関係を整理します。制度の内容は、本記事を作成した2026年10月4日時点で国税庁サイトに掲載されている情報にもとづきます。
通達35-2の改正で何が変わったか
国税庁は2022年(令和4年)10月7日付で所得税基本通達35-1と35-2を改正しました。主な変更点は次のとおりです。
| 項目 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 35-2の見出し | 事業から生じたと認められない所得で雑所得に該当するもの | 業務に係る雑所得の例示 |
| 除外する所得 | 事業から生じたと認められるもの | 事業所得または山林所得と認められるもの |
| 例示(7) | 不動産の継続的売買による所得 | 営利を目的として継続的に行う資産の譲渡から生ずる所得 |
| 判定基準(注) | なし | 社会通念での判定と、帳簿書類の保存の有無についての記述を新設 |
新設された(注)の内容は次の2点です。
- 前段:事業所得かどうかは、その所得を得るための活動が「社会通念上事業と称するに至る程度」で行われているかどうかで判定する。
- 後段:取引を記録した帳簿書類の保存がない場合は、業務に係る雑所得に当たることに留意する。ただし、収入金額が300万円を超え、かつ事業所得と認められる事実がある場合は除く。
なお、通達の案がパブリックコメントにかけられた段階では「収入300万円以下は原則として雑所得」とする書き方でした。確定した通達では、収入金額で一律に区分するのではなく、帳簿の保存を判断の材料にする形に変わっています。
判定の基本:社会通念で「事業」といえるか
国税庁の解説によれば、事業所得と業務に係る雑所得は「活動の規模」で区分されます。活動が事業的規模なら事業所得、そうでなければ業務に係る雑所得です。
社会通念による判定について、解説は次の2つの判決を引用しています。
- 最高裁 昭和56年4月24日判決:事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性・有償性があり、反復継続して行う意思と社会的地位が客観的に認められる業務から生じる所得
- 東京地裁 昭和48年7月18日判決:営利性・有償性、継続性・反復性、自己の危険と計算による企画遂行性、費やした精神的・肉体的労力、人的・物的設備、取引の目的、本人の職歴・社会的地位・生活状況などを検討する
これらの要素を総合的に考えて判定する、というのが原則です。そのため、「副業だから雑所得」「本業だから事業所得」と単純には決まりません。この考え方は、給与・事業・雑所得が混ざる年の確定申告:区分の判断と合算の手順でも、複数の所得がある年の例で解説しています。
帳簿の有無で見る判定の目安
国税庁の解説には、収入金額と帳簿保存の有無による区分のイメージが示されています。
| 収入金額 | 記帳・帳簿書類の保存あり | 記帳・帳簿書類の保存なし |
|---|---|---|
| 300万円超 | 概ね事業所得(注) | 概ね業務に係る雑所得(事業所得と認められる事実があれば事業所得) |
| 300万円以下 | 概ね事業所得(注) | 業務に係る雑所得(資産の譲渡は譲渡所得・その他雑所得) |
(注)帳簿を保存していても、後述する例外に当たる場合は個別に判断します。
帳簿を保存している場合
取引を帳簿に記録し、その帳簿を保存していれば、活動には一般的に営利性・継続性・企画遂行性があると考えられます。そのため、社会通念による判定でも事業所得に区分される場合が多いというのが国税庁の説明です。
ただし、次のどちらかに当たる場合は、帳簿があっても事業かどうかを個別に判断します。
- 収入金額が僅少と認められる場合:たとえば、収入が例年300万円以下で、主な収入に対する割合が10%未満の場合。「例年」は概ね3年程度の期間を指します。
- 営利性が認められない場合:例年赤字で、収入を増やす、黒字にするといった営業活動などの取組をしていない場合。
たとえば、年収600万円の会社員の副業収入が毎年40万円前後なら、割合は約6.7%で①の目安に当たります。帳簿をつけていても、事業所得と認められるとは限りません。
帳簿を保存していない場合
帳簿をつけていない場合や、つけていても保存していない場合は、営利性・継続性・企画遂行性があるとは認めにくいとされています。さらに、事業所得者に義務づけられている記帳と保存をしていないことも考慮され、原則として事業所得には区分されません。
例外は、収入金額が300万円を超える規模で活動している場合です。このときは帳簿がないことだけで区分を決めず、事業所得と認められる事実があれば事業所得として扱われます。この「300万円」という基準は、令和2年度の税制改正で、業務に係る雑所得の書類保存義務が前々年の収入300万円超の人に限定されたことを踏まえたものです。
雑所得になった場合の義務と影響
タックスアンサーNo.1500(令和8年4月1日現在法令等)によると、業務に係る雑所得の場合は前々年分の収入金額に応じて次の義務と特例があります。
| 前々年分の業務に係る雑所得の収入金額 | 内容 |
|---|---|
| 300万円以下 | 現金主義による所得計算の特例を選べる(確定申告書への記載が必要) |
| 300万円超 | 請求書・領収書などの現金預金取引等関係書類の保存が必要 |
| 1,000万円超 | 収支内訳書など、総収入金額と必要経費の内容を記載した書類の添付が必要 |
所得区分によって違いが大きいのは、次の2点です。
- 損益通算:タックスアンサーNo.2250(令和8年4月1日現在法令等)では、損益通算の対象は不動産所得・事業所得・譲渡所得・山林所得の損失に限られます。雑所得の赤字は給与所得などと相殺できません。
- 青色申告:タックスアンサーNo.2070(2026年10月4日閲覧)によれば、青色申告ができるのは不動産所得・事業所得・山林所得がある人です。雑所得だけでは青色申告特別控除(65万円・55万円・10万円)を使えません。
青色申告と白色申告の記帳負担の違いは、青色申告と白色申告の違い:控除と記帳負担を比較で比較しています。
判定の手順チェックリスト
自分の副業収入を区分するときは、次の順で確認すると整理しやすくなります。
- 給与所得ではないか:雇用契約にもとづく報酬であれば、そもそも給与所得です。
- 取引を記録した帳簿を作成・保存しているか:していなければ、原則として業務に係る雑所得です(収入300万円超で事業の実態がある場合を除く)。
- 収入は僅少ではないか:例年300万円以下で、主な収入の10%未満なら個別判断になります。
- 営利性があるか:例年赤字の場合、収入を増やすための取組をしているかを確認します。
- 社会通念上の事業性:継続性、自己の計算と危険による企画遂行性、設備、費やした労力などを総合的に見ます。
注意点として、赤字を給与所得と相殺することだけを目的に「事業所得」として申告すると、税務調査で区分を否認されるリスクがあります。一方で、帳簿を整えて継続的に営業活動をしている場合は、事業所得として扱われる可能性が高まります。判断に迷うときは、税務署や税理士に事前に相談してください。副業の所得が20万円以下の場合の所得税・住民税の扱いは、会社員エンジニアの副業収入と確定申告:20万円ルールと住民税で確認できます。
まとめ
- 2022年10月7日改正の所得税基本通達35-2では、事業所得かどうかは「社会通念上事業と称するに至る程度」かどうかで判定します。
- 帳簿書類を保存していれば「概ね事業所得」とされます。ただし、収入が僅少(例年300万円以下で主な収入の10%未満)の場合や、例年赤字で改善の取組がない場合は個別に判断されます。
- 帳簿の保存がなければ、原則として業務に係る雑所得です。収入300万円超で事業所得と認められる事実がある場合は例外です。
- 雑所得の赤字は損益通算できず、青色申告特別控除も使えません。前々年の収入が300万円を超えると書類の保存義務、1,000万円を超えると収支内訳書などの添付義務があります。
本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
出典
- 国税庁「所得税基本通達の制定について」の一部改正について(法令解釈通達)(令和4年10月7日)
- 国税庁 所得税基本通達 新旧対照表(令和4年10月7日改正)
- 国税庁 所得税基本通達35-1・35-2 の解説(令和4年10月7日公表)
- 国税庁 タックスアンサーNo.1500 雑所得(令和8年4月1日現在法令等)
- 国税庁 タックスアンサーNo.2250 損益通算(令和8年4月1日現在法令等)
- 国税庁 タックスアンサーNo.2070 青色申告制度(2026年10月4日閲覧)