株の売買がない年の損失繰越申告:付表と前年残高を確認する
- 結論:上場株式等の譲渡損失を繰り越している途中なら、株を1回も売らなかった年でも、付表を添付した確定申告書を出さないと翌年以降へ損失を引き継げません。
- 理由:繰越控除には、損失が出た年より後の年も続けて付表付きの確定申告書を出すことが条件として定められており、国税庁は「上場株式等の譲渡がなかった年も申告が必要」と明記しています(タックスアンサーNo.1474、令和8年4月1日現在法令等)。
- 確認点:前年分付表の⑤・⑦・⑧欄を当年分付表2面のC・B・Aへ移します。配当を申告分離課税で申告する年は、そこから控除する欄も記入します。3年前分の残りは翌年へ繰り越せません。
事業所得の申告は毎年していても、株の申告は「売った年だけ」と考えている個人事業主は多いと思います。ところが、上場株式等の譲渡損失を繰り越している途中で売買のない年があると、その年の申告書に付表を付け忘れて繰越が途切れる、という失敗が起こりやすくなります。
確定申告が必要かどうかや課税方式の選び方といった全体像は、特定口座の配当金と損益通算・確定申告の基本で整理しました。本記事では、売買のない年に前年の残高をどう引き継ぎ、どの書類を出すか という実務に絞って解説します。様式は国税庁の令和7年分の付表(令和7年分以降用)を基準にしています。
売買がない年も申告が必要な理由
国税庁タックスアンサーNo.1474(令和8年4月1日現在法令等)では、上場株式等の譲渡損失を繰越控除するための手続として、次の3つを挙げています。
- 損失が生じた年分は、「確定申告書付表(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用)」と「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」を添付した確定申告書を提出する
- その後の年も 連続して付表を添付した確定申告書を提出する
- 繰越控除を受ける年分は付表を添付し、譲渡所得等がある場合は計算明細書も添付する
2つ目の要件には「上場株式等の譲渡がなかった年も、譲渡損失を翌年へ繰り越すための申告が必要です」という注記が付いています。付表2面の欄外にも、「翌年に株式等の売却がない場合でも、上場株式等に係る譲渡損失の金額をその年の翌年以後に繰り越すための申告が必要です」とあります。
事業所得の確定申告書を出していても、付表が付いていなければ要件は満たせません。事業の赤字(純損失)は申告書第四表で繰り越すため、株の譲渡損失とは別の書類で管理する必要があります。事業側の手順は赤字の繰越は申告書第四表で行う:純損失の記入手順と翌年以降の使い方を参照してください。
前年分の付表から引き継ぐ残高
繰越残高は、前年分の付表の控えから当年分の付表2面「翌年以後に繰り越される上場株式等に係る譲渡損失の金額の計算」へ、次の対応で書き移します。
| 当年分付表2面の欄 | 損失が生じた年 | 書き移す元 |
|---|---|---|
| A | 本年の3年前分 | 前年分付表の⑦欄 |
| B | 本年の2年前分 | 前年分付表の⑧欄 |
| C | 本年の前年分 | 前年分付表の⑤欄 |
(出典:国税庁「確定申告書付表(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用)」令和7年分以降用)
国税庁の記載例にも「この付表は、翌年以後の申告で必要になりますので控えも併せて作成し、保管してください」とあります。前年分の付表の控えが手元にあるか を最初に確かめてください。e-Taxで提出した場合も、送信した申告データや控えのPDFを保存しておくと翌年の転記が楽になります。
次の2点にも注意が必要です。
- 3年前分は翌年へ繰り越せない:付表の※2のとおり、「本年の3年前分」に生じた損失のうちその年に引ききれなかった金額は失効します。例えば令和8年分の申告では、令和5年分に生じた損失が「3年前分」にあたります。
- 控除は古い年の損失から順に行う:付表の※1で、前年から繰り越された損失は最も古い年に生じたものから差し引くと定められています。
配当の有無で変わる記入と必要書類
売買がない年は、その年に新しく生じた譲渡損失も譲渡所得等もありません。付表1面の注記どおり、「①上場株式等に係る譲渡所得等の金額」が黒字の場合や「②上場株式等に係る譲渡損失の金額」がない場合は、1面の⑴を記入する必要はありません。そのうえで、配当を申告するかどうかによって記入する欄が変わります。
配当を申告しない年
上場株式等の配当を申告しない(あるいは配当がない)年は、損失を差し引く相手となる所得がありません。2面のD〜I(本年分で差し引く金額)は空欄のままとし、残高を引き継ぐだけです。
- 翌年へ回る金額:⑦(Bの残り)と⑧(Cの残り)。⑪欄は「⑤+⑦+⑧」で計算します
- A欄(3年前分)は使われないまま失効します
- 提出書類:確定申告書と付表。No.1474によれば、計算明細書は譲渡所得等がある年分に添付するものなので、売買がなければ付けなくてかまいません
配当を申告分離課税で申告する年
繰り越した損失は、上場株式等の配当所得等からも差し引けます。ただし対象になるのは、申告分離課税を選んだ配当に限られます(No.1474)。
- 付表1面の⑵に配当等の収入金額(税込)を書き、④(損益通算前の分離課税配当所得等金額)を求めます。⑴を書かない場合、⑥には④の金額をそのまま移します
- 2面のE・G・Iに、古い年の損失から順に配当所得等から差し引く金額を書きます。合計が⑩、差し引いた後の配当所得等が⑫(⑥−⑩)で、それぞれ申告書第三表へ転記します
- 残った金額が⑦・⑧になり、⑪が翌年へ回る残高になります
配当を申告すると、その金額は合計所得金額に含まれます。令和6年度分以後は、所得税で選んだ課税方式が住民税にもそのまま適用されます。国民健康保険料などへの影響は人によって違うため、申告するかどうかは一律には決められません。判断の手順は配当の課税方式は所得税と住民税で揃える:制度変更の内容と選び方の手順で確認してください。
申告書の作成と提出で迷いやすい点
確定申告書等作成コーナーを使う場合
国税庁は、作成コーナーで画面の案内に沿って入力すれば必要な付表や明細書も自動で作成されると案内しています(No.1474)。前年から繰り越された損失の金額は自分で入力するため、ここでも前年分付表の控えが必要になります。
事業の赤字もある年
事業所得が赤字で第四表(損失申告用)を使う年は、第三表(分離課税用)は不要です(国税庁「令和7年分 確定申告の手引き 損失申告用」)。そのかわり、第四表の「6 翌年以後に繰り越される株式等に係る譲渡損失の金額」の記入と付表の添付が必要になります。株の繰越だけ第三表のつもりで処理しないよう、どちらの様式を使うかを先に決めておきましょう。
様式の年分
この記事は令和7年分の様式(令和7年分以降用、R7.11)で確認しています。令和8年分の申告では、その年分の様式と手引きが公表された後に、欄の番号が変わっていないかを確かめてから記入してください。
まとめ
上場株式等の譲渡損失を繰り越している途中は、株を売らなかった年でも 付表を添付した確定申告書を出し続けること が繰越を続ける条件です。手順としては、前年分付表の⑤・⑦・⑧欄を当年分2面のC・B・Aへ移し、配当を申告分離課税で申告する年だけ配当所得等から差し引く欄を記入して、⑪欄を翌年への残高とします。3年前分の残りは失効するので、損失がいつ生じたものかを年ごとに把握しておくと判断しやすくなります。配当を申告するかどうかは住民税や社会保険料にも関わるため、全体像は034の記事とあわせて確認してください。
本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
出典
- 国税庁 タックスアンサー No.1474 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除(令和8年4月1日現在法令等/2026年10月23日確認)
- 国税庁 令和7年分 株式等の譲渡所得等の申告のしかた【事例2】記載例(Q11)(令和7年分/2026年10月23日確認)
- 国税庁 確定申告書付表(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用)(令和7年分以降用・R7.11/2026年10月23日確認)
- 国税庁 令和7年分 所得税及び復興特別所得税の確定申告の手引き(損失申告用)(令和7年11月1日現在の法令等/2026年10月23日確認)
- 国税庁 令和7年分 株式等の譲渡所得等の申告のしかた(令和7年分/2026年10月23日確認)
- 国税庁 確定申告書等作成コーナー よくある質問 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例(措法37の12の2)(令和7年4月1日現在法令等/2026年10月23日確認)